ジョジョ作者・荒木飛呂彦が明かす「漫画の王道」とは?「基本四大構造」や「悪役」から紐解く王道漫画の作り方
1987年に「週刊少年ジャンプ」で連載がスタートした「ジョジョの奇妙な冒険」。現在でも連載が続く人気シリーズを生み出したのが、漫画家・荒木飛呂彦だ。大ヒット作を手掛けた荒木だが、漫画家として「企業秘密」といえる漫画制作のノウハウを、2015年に刊行された「荒木飛呂彦の漫画術」で明かしている。
その「漫画術」から10年が経過し、前作からさらに内容を深掘りした「荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方」が刊行された。本作は、漫画制作の哲学やキャラクター作りの考え方など、荒木のこだわりやポリシーが詰まった一冊だ。
●王道漫画は「基本四大構造」によって成り立つ
漫画の描き方には「漫画の王道」といわれるセオリーがあるという。本作の目的は、漫画家を志す者にこの「王道」を伝授するものだ。もちろん一漫画ファンにとっても、通常は知りえない描く側の視点を学べる内容で、作品の解像度を上げることに役立つだろう。
荒木が2作を通して、漫画を描く上で押さえるべきこととして挙げているのが「基本四大構造」。重要な要素の順から並べると下記のようになる。
①キャラクター
②ストーリー
③世界観
④テーマ
最も重要な要素が「キャラクター」となり、荒木がキャラクターを構成していく際に用いるのが、履歴書のように情報を記した「身上調査書」。本作にはいくつかのキャラクターの「身上調査書」も掲載されているので、ファンには必見だ。
次に重要な要素が「ストーリー」。時代とともに古く見えがちなキャラクターを補い、名作として読み継がれるためには力強いストーリーが必要となる。さらに、リアリティがあり説得力を感じる「世界観」、キャラクター・ストーリー・世界観を繋ぐ大枠として「テーマ」がある。そして、この4つの要素全てがうまく「融合」することで名作が誕生するのだという。この「基本四大構造」を頭に入れておくと、また新しい視点を持って漫画を楽しむことができるだろう。
●主人公と対をなす「魅力ある悪役」が作品のキー
漫画は主人公だけでは成立しない。全ての漫画に必要なのが、主人公と対をなす悪役の存在。キャラクターは「基本四大構造」で最も重要な要素であり、魅力的な悪役がいることで漫画は面白くなるという。
編集者が「この漫画、なんか足りないんだよね」と言うときは、九〇%以上の確率で「悪役が立っていないのだと思います。僕と編集者の打ち合わせもほとんどが悪役についての話で、「ストーリーはいいんですけど、この悪役はちょろいんじゃないかな」「なんだか普通で、弱すぎますよ」などと指摘されたりします。
「荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方」より
敵が強ければ強いほど主人公との戦いが面白くなり、その困難は主人公の成長にも繋がる。「ジョジョ」でいうと、第一部の主人公・ジョナサンに対するDIOだ。強大な敵であるDIOとの対比により、平凡な若者だったジョナサンもヒーローとして引き上げられ、主人公として輝きを増したといえる。
さらに「ジョジョ」シリーズの長い連載の中では、時代の流れによって悪役の性質を変化させているという。例えば悪のカリスマであるDIOに対して、第四部に登場する吉良吉影は「普通の人」だ。分かりやすい「悪」ではなく、日常に潜む恐ろしさが表現されている吉良は、バブルが終わり停滞した日本の空気感も反映している。
悪役を作るということは、作者の「悪とは何か」という一種の「哲学」が反映される、けっこう深い作業なのです。
「荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方」より
●最も厄介なタイプの「悪役」岸辺露伴の担当編集者・泉京香
「岸部露伴は動かない」で悪役として配置されたキャラクターが誰か分かるだろうか。悪役は意外にも、露伴の担当編集者・泉京香だという。漫画家と編集者の関係というとバディのようなものだが、荒木は京香のことを次のように評している。
彼女はそのつもりがないのに敵を連れてきてしまう、けっこう怖い編集者なんです。
「荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方」より
悪役には様々なタイプがいる中で、主人公へのダメージが大きいのは「信頼していた身近な人」から裏切られるケース。さらに厄介なのは、「無意識のうちにとる行動が主人公を困難に陥れていく」タイプだという。これは、まさに京香の役回りである。「動かない」露伴を引きずりだしてトラブルに巻き込むために必要な「悪役」なのだ。
本作を通して漫画の世界を紐解くと、漫画がいかに緻密な計算の上で構成されているか分かるだろう。読後は、作品に込められた作者の意図を探しながら漫画を読み返すのも面白いかもしれない。
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掲載: 2024年12月09日 17:00