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第16回 ─ 枯れたことのない薔薇

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2006/07/06   22:00
ソース
『bounce』 277号(2006/6/25)
テキスト
文/林 剛

アレサ・フランクリンと、彼女を70年代も女王たらしめた才人たち


70年代のアレサ・フランクリン作品のリイシューが続いている。71年に行われた〈フィルモア・ウェスト・ライヴ〉の完全版が4枚組の限定盤として昨年リリースされたが、今度はその抜粋版となるCDをプラスした2枚組のデラックス版『Live At Fillmore West』が一般流通商品として登場。そして下に掲載した70年代アレサの3作も紙ジャケ仕様でリイシュー! まるで新作を待てないファン心理を代弁するかのようだ。それだけ多くのリスナーにとってアレサというのは、常に側にあってほしい歌声、存在なのだと思う。そんな〈アレサ〉といってわれわれが瞬時に思い浮かべるのはアトランティック時代の彼女だろう。ただ多くの日本のファンは、同じアトランティック時代でも南部のミュージシャンと渡り合った60年代後半のアレサこそ至上であると思い込まされ、70年代のアレサは試行錯誤を繰り返したスランプの時代だとされてきたフシがある。果たして本当にそうなのだろうか?というのが今回のテーマだが、ダニー・ハサウェイやカーティス・メイフィールド、クインシー・ジョーンズらを味方につけ、多様化する70年代のサウンドと向き合って洗練を加えたアレサは、80年代以降も時代の音と親しく対話している姿が伝えられている現在から見れば、不遇の時代だとは思えない。むしろ、アトランティックの革新と歩調を合わせるように新しいソウルを貪欲に実践しながら、サウンドに翻弄されないシンガーとしての大器ぶりを証明したのが70年代のアレサだった……とは言いすぎだろうか。ソウル~ジャズ畑の腕利きミュージシャンや自身の姉妹など、裏方や脇役たちの妙技を妙技として聴かせつつ、それらを包容しながら心に響く歌を歌い上げたアレサ。まるでアレサ自身がひとつのレーベルのように機能して、ミュージシャン各々の個性を広く世に伝えた功績は大きい。そんなアレサは近年アレサズなるレーベルを立ち上げ、新作も準備中だという。70年代の輝くアレサの世界をその関連諸作と共に再確認しながら、新作を待つのもいいだろう。