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第14回――甦れ、わが息子!

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2009/06/10   18:00
ソース
bounce 310号(2009年5月25日発行)
テキスト
文/北爪 啓之、冨田 明宏


ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!



僕は阿智本悟。ピート・ドハーティの生き様に憧れ、ロックンロールな日々を夢見て上京してから1年と数か月が経つ。引っ越し先の北区はロックとは無縁の下町だし、上司は超保守的で僕のファッションや髪型をまったく認めようとしない。本当にクソッタレな1年だったと思う。でもさ、文句を言いつつもやってこられたんだもんね。いくら課長に怒られたって、同僚に冷ややかな目で見られたって、別に死ぬわけじゃないし。大好きなロックさえ聴ければ、僕は十分満足さ──なんてことを、唯一の任務(コピー用紙の補充)を遂行しながら今日も考えてた。本音を言えばバリバリ仕事ができるようになりたいし、後輩からも敬われたい。正直この仕事が向いてないのも、何となく気付いている。でも自分のスタイルだけはどうしても曲げられないんだ。とりあえず、いまはこの生活を維持できたらそれでいい。たとえ他人からつまらない人生だと言われてもね!

ボンゾ「ブツブツと独りごと言ってる暇があるならチャッチャと手を動かしやがれ! これだから〈ゆとり教育世代〉にゃ腹が立つんだ!」

僕の思考を遮るように、ボンゾさんの怒鳴り声が響いた。そんなわけで、今日も白髪のオールバックで口髭グラサンの偏屈オヤジ、ボンゾさんのいるロック酒場〈居酒屋れいら〉に来てしまった。が、店の様子がちょっとおかしい。いつも通り店に入った僕に対し、ボンゾさんはDVDプレイヤーの接続を命じたのだ。かつての常連で、ザ・フーが大好きな3人のおっさん(第5回参照)もなぜか集まっていた。この人たち、医者に酒を止められているんじゃなかったっけ?

阿智本「ところで今日は何の集まり? 息子夫婦に追い出された被害者の会とか?」

ボンゾ「テメエ、ブッ殺すぞ! 今日はわが〈居酒屋れいら〉に、巷で話題のDVDプレイヤーがやってきた大事な日だ。美しい画像! 迫力のある音! 想像しただけで眩暈がするぜ。そんな記念すべき日を祝おうと、元常連が集まってくれたんじゃねえか! とっとと観られるようにしやがれ!」

DVDが巷で話題になったのは僕が小学生の頃だし、むしろいま話題なのはBlu-rayなんじゃ? でもそれを突っ込むとまた怒鳴られそうだから、スルーしておこう。作業を始めて30分、おっさんたちの忍耐も限界にきているようだ。背中に感じる視線が痛い。

阿智本「よし! これでもう映ると思うよ」

ボンゾ「おおっ! でかした、阿智本!!」

珍しく褒められた。元常連軍団も〈流石ナウいヤングだ〉などと囁いている。

阿智本「で、記念すべき1発目は何のDVDを観るの?」

ボンゾ「これだ! 天才フォーク・シンガー、ティム・バックリーの素晴らしい倅=ジェフ・バックリーが生前に残した貴重なライヴ映像集〈Grace Around The World〉だぜ。どうしてもこれが観たくてよ~」

古いブラウン管のTVに映像が映し出されると、店内に歓声が起こった。いまって本当に2009年だよね? 調子狂うよな~。

阿智本「ジェフ・バックリーって、90年代の人だよね? 名前は知っているけど、曲は聴いたことなかったよ」

映像も意外と新しい。すごく繊細で、だけど情熱的な歌声だ。いまの時代にはあまりいないタイプのシンガーだけど、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズとかに近いかも。これはいい。何でいままで聴かなかったんだろう……。

ボンゾ「ここには93年のデビュー時から死ぬまでの3年間に残された本人のインタヴューやお宝映像もギッチリ詰まっててな、おまけに来日時のライヴまで収録されてるんだ。やっぱりキレイな映像で観ると違うな。まるでまだ生きてるみたいだぜ……」

阿智本「確か事故で亡くなったんだよね?」

ボンゾ「ウゥ、俺らの世代にとってみりゃジェフは息子同然なんだよ。何で俺よりも先に死んじまいやがったんだ! 親不孝者が!! オロロ~ン、オロロ~ン(涙)」

元常連たちからもすすり泣く声が聞こえてくる。そして誰からともなく、〈は~れ~るう~や~♪〉と合唱が始まってしまった。うわ~、居心地悪いな。

ボンゾ「ん? なんだ、まだいたのか。もうお前は帰っていいぞ。ご苦労さん」

このクソおやじ! まあ、こんな湿っぽいところにいても楽しくないから、帰って〈モンハン〉でもや~ろおっと!

ボンゾ&おっさんズ「は~れ~るう~や~、は~れ~るう~や~♪」



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