ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!
僕は阿智本悟。東京・北区で死ぬほど退屈なサラリーマン生活を送っている。北国から上京して1年半になるけど、これと言って楽しいことは何もないんだ。地元で夢見ていた〈ピート・ドハーティみたいなロックンロール・ライフin TOKYO〉はどこへやら。上司からは〈仕事をナメるな!〉と日々怒鳴られ、同僚からはシカトされ、後輩にはタメ口をきかれている。こんなはずじゃなかったのに!……とヤキモキしたところで虚しさが募るだけ。今日もコピー用紙を補充しながら、退屈な一日をやり過ごす。もちろん定時になったらきっちり退勤。こんなクソッタレな毎日を吹き飛ばすには、最高のロックを聴くしかない! いまのお気に入りはデッド・ウェザーズ! ウヒョ~! テンションが上がってきたよ! オアシスからノエルが脱退しちゃったり、リトル・マン・テイトが解散しちゃったり、最近は良いニュースがなかったけど、僕にはジャック・ホワイトがいるじゃないか!
そんなテンションで、今日もロック酒場〈居酒屋れいら〉に駆け込んだ。古臭いロックしか愛せない偏屈なロック・オヤジ、ボンゾさんの店だ。
阿智本「おいっす! ボンゾさん。梅割りとコンビーフ、マヨネーズ多めで!」
ボンゾ「テメエ、俺の店で勝手に〈マヨネーズ多めで!〉とか威張るんじゃねえ! ここじゃ俺がルールだ。マヨの分量は俺が決めるッ!」
とか言いながら、食べやすいサイズに切られたコンビーフにマヨネーズを山盛りかけてくれる。その上には黒コショウがパラリと。これが美味いんだ。いっしょに出てきた梅割りを一口すすったところで、あることに気がついた。
阿智本「あれ? 珍しく今日は音楽が流れてないじゃん。どうしたの? ロックに飽きちゃった?」
ボンゾ「バカヤロウ、ロックこそわが人生だぞ! 常に転がり続ける俺がロックに飽きるわけねえだろうが、ボケッ! ちょうど何をかけようか迷っていたところなんだ。バーズをかけようか、20周年記念でリマスタリングされたストーン・ローゼズの『The Stone Roses』をかけようか……」。
えっ!? 僕は耳を疑った。
ボンゾ「う~ん、どっちも捨てがたいぜ」
阿智本「ちょっと、ボンゾさん! いまストーン・ローゼズって言った?」
ボンゾ「何だよ、珍しくお前が知ってんのかよ?」
阿智本「ニューレイヴとかダンス系ロック・バンドの元祖的な存在で、オアシスが正式に誕生するきっかけにもなった、あのストーン・ローゼズ? むしろボンゾさんこそ何で知っているのさ!?」
ボンゾ「このチンパンジーが、またワケのわからねえことを抜かしやがった。ローゼズがたかだか20年ちょっと前に結成された若造バンドなのは知っているが、コイツらはフォーク・ロックの始祖たるバーズの正統的フォロワーだろうが。それがダンス系だと? 耳が腐ってんじゃねえの!? 耳鼻科行ってこい、耳鼻科!」
阿智本「バーズって何? フォーク・ロック? そんなもんがダンサブルなロックと何の関係があるのさ! 耳鼻科に行くべきなのはボンゾさんだろ!」
ボンゾ「まったく、うるせえガキだな。じゃあ試しにこれを聴き比べてみな!」
そう言って、ボンゾさんはローゼズの“She Bangs The Drums”や“Waterfall”などをしばらく流したところで、今度はバーズという人たちの“Turn! Turn! Turn!”や“Eight Miles High”、“Fifth Dimention”“Bells Of Rhymney”というタイトルの曲を聴かせてくれた。ぐむむむ、確かに似てる。特にギターの感じなんてソックリじゃないか。というか僕、ローゼズって2作目の『Second Coming』しか持ってなかったっけ。ファーストとセカンドでこんなに違うなんて知らなかったよ。
ボンゾ「な? だから言ったじゃねえか。ローゼズはフォーク・ロックなんだよ。これだから最近のガキは……」
フォーク・ロックって断言しちゃうのは危険な気もするし、何よりボンゾさんの得意げな顔がちょ~ムカツク!
阿智本「うるさいやい! 何と言われようがローゼズはダンス系ロックの元祖だもんね! もういい、今日は帰る!」
ボンゾ「はて、もしや最近はフォーク・ロックのことをダンス系ロックって言うのか? だとしたら心底ワケのわからん世の中になったもんだぜ。どおりで話が噛み合わねえはずだわ……」。