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第16回――ママ・キャスに包まれたい

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2009/10/28   18:00
ソース
bounce 315号(2009年10月25日発行)
テキスト
文/北爪 啓之、冨田 明宏


ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!



僕は阿智本悟。東京・北区でクソ退屈なサラリーマン生活を送る、北国出身のイマドキなロック・ラヴァーさ。上京して1年半、一人暮らしを始めてからもう2度目の秋か……。いつの間にか木々は紅葉したけど、僕の日常が赤く色付く気配はない。何で秋って人恋しくなるんだろう。ああ、憧れの楓先輩……。まだあなたはフランク・ザッパの件を根に持っているのですか(2008年6月号〈友達ができない!〉の回を参照)。いや、流石にあのことはもう忘れていると思う。ただ楓先輩のあまりの美しさに、僕の気が引けているだけなのかもしれない。東京に来てからあまりにも良いことがなさすぎて、自分に自信が持てなくなりつつあるからね。ダメだ、今日は何だかネガティヴ志向だ。こんな時東京で唯一頼れるのが、ロック酒場〈居酒屋れいら〉のマスター、白髪のオールバックに口髭&レイバンのサングラスが怪しすぎるボンゾさんしかいないというのも情けないよ! とか思いつつ、今日も古臭いロックばっかり聴いているあの偏屈オヤジの店に足が向かっていた。

阿智本「オイッス! 梅割りとコンビーフ、マヨネーズをたっぷりで……って、ボンゾさん!?」

ボンゾ「オロロ~ン(泣)、エグエグエグ(嗚咽)、オロロ~ン(泣)」

またかよ! いやいや、久しぶりにボンゾさんが泣いているところを見た気がするけど、何だか面倒臭いな~。

阿智本「どうしたんだよ。さも気付いてくれと言わんばかりに声を上げて泣いちゃってさ。どうせまた、逃げられた奥さんとの思い出の曲でも聴いて、勝手に傷心気分に浸ってたんでしょ?」

ボンゾ「うるせえ! お前はまったく男心のわからねえヤツだな。大体よ~、もしそうだとしたって何が悪いんだ!」

阿智本「え、マジでそんな理由なの? いい歳したオッサンが? キモッ!」

ボンゾ「だからそんな理由じゃねえよ! 今回初めてCD化されたキャス・エリオットの名盤『The Road Is No Place For A Lady』を聴いていたら、久しく感じていない女の温もりを思い出しちまったんだ。女ってのは、何であんなに柔らかくて温かくて優しい存在なんだろう……ってな」

阿智本「むしろそっちのほうがキモイって! で、そのキャス何とかって誰? どんな人なのさ」

ボンゾ「お前は本当に地球人か!? ママス&ザ・パパスのママ・キャスだぞ」

阿智本「……」

ボンゾ「何てこった(愕然)。巨体の女性シンガー、キャスの人生はとにかく不遇でな。初婚は男がヴェトナム戦争の兵役を逃れたいがための偽装結婚だったり、嘘か本当か知らんが3音域ぶん高い声が出るようになったのも鉄パイプに頭を打ったことがきっかけと言われていたり、ママス&ザ・パパスもキャスが恋路に敗れた挙句の解散だったり……極めつけは太っていたがためにハムサンドを喉に詰まらせて死んだなんて都市伝説も広まる始末さ。確かに彼女が急死した部屋には食べかけのハムサンドがあったらしいが、死因は心臓発作だったんだよ。それなのに、映画〈オースティン・パワーズ〉でも〈ハムサンド死〉がネタにされちまってよ、ウゥ……」

阿智本「ヒドイ! ヒドすぎる! 何だか僕まで泣けてきたよ」

ボンゾ「それでもキャスの歌声は実に穏やかで温かいんだよ。聴いていると包容力のあるふくよかな女の愛に包まれているような気持ちになってな~。このアルバムにはアルバート・ハモンドが作曲した“Break Another Heart”や、ハリケーン・スミスのカヴァー“Oh Babe, What Would You Say?”も収録されていてな。それがまた絶品なんだ」

阿智本「え? いまアルバート・ハモンドって言った? あの僕が尊敬して止まないストロークスの?」

ボンゾ「ストローズ? そんなもんは知らねえよ。ということで、今日はもう帰ってくれ!」

阿智本「何でだよ! いま来たばかりじゃないか!」

ボンゾ「それは俺が男で、お前も男だからだ」

は? 全然意味わかんないよ! クソ~、僕はこんな寂しい男やもめには絶対ならないぞ! 今年こそ、クリスマスまでに絶対彼女を作ってやるからな!!



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