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第22回――風に吹かれて……

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2010/11/23   12:54
更新
2010/11/23   12:54
ソース
bounce 326号(2010年10月25日発行)
テキスト
協力/北爪啓之、冨田明宏


ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!



僕は阿智本悟。三度のメシより最新のロックが大好きな、東京は北区のサラリーマン3年生さ。今日も退屈な仕事をさっさと片付け、今年の〈レディング〉で見事に再結成を果たしたリバティーンズ(僕の神!)のカール・バラーのソロ作を聴きながら、いつもの場所に向かっていた。そう、オールド・ロックしか認めない偏屈なマスター、ボンゾさんがいるロック酒場〈居酒屋れいら〉だ。今日という今日はオッサンに僕の大好きなロックも認めてもらうぞ!——そんな道場破りのような意気込みで店の扉を引いた。

阿智本「お疲れっす! とりあえず梅割りとコンビーフね。ところでボンゾさん、今日は最高にイケてるアルバムを持っ……」

ボンゾ「うるせえんだよ、コノヤロー! ブッ殺すぞ!!」

いきなり客に殺人予告!? いまさらながら、何てヒドイ店なんだ……。

阿智本「何だよ、物騒だな~」

ボンゾ「とにかく黙れ、クソ阿智本! 俺はいまボブ・ディラン大先生の公式ブートレグ音源集『The Bootleg Series Volume 9: The Witmark Demos 1962-1964』を拝聴中なんだ! 邪魔するヤツは誰であろうと叩っ切るぞ!!」

阿智本「今日はいつにも増して絡みづらいね。で、ボブ・ディランだって? 僕が信奉するカール・バラーも超リスペクトしてて、彼がコンパイルしたコンピ『Under The Influence』にもディランの曲が入ってたよ」

ボンゾ「オヨヨ!? 珍しく食い付きがいいじゃねえか。そのカールおじさんもフォーク・シンガーなのか?」

阿智本「フォーク!? 暗くてジメジメしていて歌謡曲みたいな、昭和のダサイ音楽でしょ? よくお父さんが聴いてたけど、僕はあれが嫌でロックにハマったようなものなんだ。あ、ちなみにデヴェンドラ・バンハートあたりのフリー・フォークって呼ばれている音は嫌いじゃないけど……いずれにしたって、カール様の作っている音楽とはまったくの別物だよ!」

ボンゾ「何ちゃらバンハートっつうのは知らねえが、親父さんの聴いていたのはいわゆる〈四畳半フォーク〉ってヤツだな。あれはあれで悪くもねえが、ディランのフォークはそれとはまただいぶ違うんだよ。まあ聴いてみろや、ポチっとな!」

……驚いた。ボンゾさんの言う通りこれは僕の知っているフォークとは違う。ほぼアコギの音だけなのに、あり得ないほどの激しさを感じるし、熱いパッションがビリビリと伝わってくる。

ボンゾ「これは若き日のディランが作ったデモ音源だ。特にこの頃は、公民権運動に揺れるアメリカ国民の感情に訴えかけるプロテスト・ソングを発表していた時期だけあって、ディランの若さゆえの魂の叫びがスピーカーをブチ抜いて届いてくるだろ? 熱いメッセージをシンプルに歌に込める——これこそがフォークだぜ。俺に言わせりゃ、最近の若造が喜んで聴いているオチャラケたパンクよりもよっぽどパンクだと思うがな!」

ボンゾさんのドヤ顔がとんでもなくムカツクけど、確かにこれはリバティーンズに通じる熱量を感じるし、パンクと言われれば確かにパンクかもしれない。しかも、どこかヒップホップっぽい言葉のリズム感とメッセージ性がカッコイイな~(知ったかぶり)。

阿智本「今日はフォークに対する考え方を改めさせられたよ。僕のフォーク観は偏ったものだったんだね。いや~、まさかボンゾさんに何かモノを教わる日が来るなんて思ってもいなかった! あはははは! ところで、僕がボブ・ディランにも匹敵すると思っている、生涯愛し続けるであろうカール・バラーのソロを聴い……」

ボンゾ「だから、ダラダラうるせえんだよ! 今月はもうディランしか聴かないって決めてんだ。限定5000箱のモノラル・ボックスもあるしなッ! ディラン以外の話がしたいなら、よそに行ってくれ!!」

阿智本「だったら初めから店を開けてんじゃねえよ! もう二度と来るか、こんな頑固オヤジのとこ!!」

ボンゾ「フン! やっと帰ったか。どうして阿智本はあんなにミスター・ノータリンマンなんでしょうねえ、ディラン先生? え、〈友よ、その答えは風に吹かれている〉って……そ、その通りでやんすね!」