ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!
僕は阿智本悟。東京は北区で退屈なサラリーマン生活を送る25歳さ。師走だからといってさほど忙しいわけでもなく、特に変化らしい変化も、前進らしい前進もないまま2010年12月31日を迎えてしまった。〈僕はなんのために東京まで来たんだっけ?〉という疑問が頭のなかをグルグル回るよ。そうだ、ロックな生活に憧れて上京したんじゃないか。ところがどうだ、北区には最新のロックを体感するような場所も、語るような場所もない。あるのは、古い音楽ばかりをムリヤリ薦めてくるロック酒場〈居酒屋れいら〉くらいのもの。僕が求めているのはああいうんじゃないんだよ……なんて思いつつも、他に行き場のない僕は、キングス・オブ・レオンを聴きながら今日もボンゾさんのもとへ向かっていた。待てよ、そもそも大晦日にやってるのかなあ!?
阿智本「おっす! とりあえず梅割りとコンビーフね」
心配するまでもなく、〈れいら〉はいつも通り営業していた。カウンターに立つボンゾさんも、いつも通り白髪オールバックにレイバンのサングラス。いったい、いつからこのスタイルをキープしているんだろう?
阿智本「大晦日でも店を開けてるんだね!」
ボンゾ「あたぼーよ。大晦日だろうが、浮かれずに与えられた仕事を日々淡々とこなす。真の男とはな、そういう高倉健みたいなもんなんだよ。まあ、ロック界の〈男のなかの男〉と言えば、間違いなくエルヴィス・プレスリーだけどな!」
阿智本「プレスリー!? なんだよ、急に! 腕にヒラヒラのそうめんを付けた、ピーナッツバターが好きそうな太っちょのオジサンが〈男のなかの男〉だって!?」
ボンゾ「会ってまだ3分も経ってねえのに、早くもお前を殴りたくなっちまったぜ! まあ、どうせ阿保本の知識なんてそんなもんだろうとは思っていたけどな。今日はそんなキミのために、わざわざ池袋のタワレコで仕入れてきた一枚を聴かせてやろうと思う。ポチッとな!」
え!? ボンゾさんがこれを買ったなんて信じられない!
ボンゾ「驚いたか! これはキング・オブ・ロックンロールことエルヴィス・プレスリーの生誕75周年を記念して制作された、〈21歳のエルヴィスが21世紀にニュー・アルバムを制作したら?〉というコンセプトの作品だぜ。エルヴィスが残した無数の録音物を3,000時間かけて精査して、17,000以上サンプリングしたそうだ。エリック・トルノーとヒューゴ・ボンバーディアっつうシルク・ドゥ・ソレイユの音楽プロデューサーが監修したらしいぞ」
解説文を棒読みしたようなボンゾさんの声はあまり耳に入ってこなかったけど、これはなかなかカッコイイじゃないか! ヒップホップやパンクっぽいアレンジを施したド派手なトラックが、レトロなヴォーカルと意外なほどマッチしてる!
ボンゾ「それにしても、ドえらい感じに仕上がっちまってるなあ……」
毎日毎日、変わらずに同じことを繰り返すボンゾさんが目の前にいる。一方で変化のない日々に嫌気が差していた僕。なんだか考え込むのがバカらしくなってきた。
阿智本「そうだ! 今日は大晦日なんだし、ボンゾさんも飲みなよ!」
ボンゾ「おう、そうだな! 男たるもの1年の終わりを酒で締めないでどうするって話だ!」
そういうと、焼酎の一升瓶を持ちながらカウンターを出て僕の横に座った。
ボンゾ「やっぱりエルヴィスの声は唯一無二。どんなバッキングだろうが最高に色気のある男の歌声を聴かせてくれるぜ。まあ、俺の歌声も相当にセクシーだがな! ガハハハハハハ!」
豪快に笑うと、ボンゾさんは曲に合わせて鼻歌を歌いはじめた……けど、ビートが速すぎて全然ついていけてないっつうの!
阿智本「リズム感ないね~。まるで歌えてないじゃん(笑)」
ボンゾ「フン! やっぱり俺にはオリジナルのほうがしっくりくるな! こんなにイジることもねえだろうに……」
〈これがカッコイイんだよ!〉というツッコミは腹に仕舞い込んで、テキトーに相槌を打っておいた。
阿智本「あれ、なんだかんだで2010年も残すところ1時間を切っちゃったよ!」
ボンゾ「阿智本よ、酔いも回って温まったし、そろそろ店閉めて王子稲荷に初詣でも行くか!?」
阿智本「そうだね、まあ正月くらいは老人介護してあげてもいいよ」
ボンゾ「うるせえ! ほら、行くぞっ!!」。