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〈テクノ警察〉外伝――オレのルーツ、『Screamadelica』の成人式!

連載
Y・ISHIDAのテクノ警察
公開
2011/06/04   00:05
更新
2011/06/04   00:06
テキスト
文/石田靖博

 

長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす連載!!

 

私、テクノ警察のプロフィールに(クラブに目覚めたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』)と記載されてます。男はイザという時、やらねばならないというのなら、いまがその時であるっ!ということで、リリース20周年を記念して、私と『Screamadelica』について書きます。

正直、プライマルを知ったのは、かつて(いまも)崇拝していたフリッパーズ・ギターがきっかけだった。いまみたいになる前の「宝島」誌で彼らが連載していた(フリキュラ・マシーン)内のコーナーや、当時FM横浜で担当していた番組〈マーシャンズ・ゴー・ホーム〉の選曲リストで絶賛していたのだった。当時、小沢/小山田に憧れLeeのウェスターナー上下で地方大学に颯爽と通学していた連中の一人である筆者は飛びついた。早速(当時の)音楽知識のメガバンクであったレンタルCD店に向かって、深夜、自転車を尾崎豊ばりに走らせたのであった。余談ではあるが、そのレンタル店は夜10時から深夜料金で安くなったので毎週のように自転車深夜便を決行していたのだが、その頃に同じくブームであった悪趣味系の書籍も図書館で借りまくっており、家に積まれる〈実録・殺人事件簿〉などと深夜徘徊を親が関連づけるのも仕方のないこと、いつケッタイなことをして捕まるか心配していたのであった。

話を戻して、レンタル店で唯一あったプライマルのCD、その名も『Primal Scream』を借り、カセット録音しながらワクワクして聴いてみたら……あれ? オシャレでもなんでもない、MC5まがいの不良ロック。でもヴォーカルが下手……という内容で、間違えて違うバンドのCDを借りたのではないかと疑ったほどだ。

当時はインターネットという便利なものも存在しないので、あとはフリッパーズ情報待ちであった筆者に神の思し召しが! 名古屋駅前のCD屋でたまたま手に取った、日本コロムビアが出していたフリーペーパー(タイトル失念! 乞情報!)にプライマルの情報がガッツリ載っているではないか。たぶんライターは瀧見憲司だったような気がする。そして、上述のフリッパーズの連載で絶賛されたシングル“Higher Than The Sun”を(当時)文化の殿堂であった名古屋パルコのタワレコに買いに行った91年の夏はずーっと〈Higher~〉ばかり聴いていたので、実はプライマルにはロック的な要素を感じていなかった。そこから“Come Together”“Loaded”と遡ったので、プライマル=アシッド・ハウスという分類だったのだ、筆者のなかでは。

そこで満を持してリリースされたのが『Screamadelica』なのだが、上述のシングル3枚、テクノ度がもっとも高い“Slip Inside This House”は超好きだったけど、実はアルバム後半のブルージー路線の曲にはあまり入り込めなかった……というか、あんまり聴いていなかった。そこからは、ジェイムズ・ブラウン“Funky Drummer”的なダンサブルなビートを下敷きとした〈インディー・ダンス〉なロックを好んで聴くようになり、その流れと『Screamadelica』の導師=アンドリュー・ウェザーオールのユニットであるセイバーズ・オブ・パラダイスや“Higher Than The Sun”をプロデュースしたオーブなどによって、自然とクラブ・ミュージックへ傾倒していったのが〈テクノ警察〉の生誕裏話なのである。

また、ここでウェザーオール番長と、当時番長も運営に関わっていたボーイズ・オウンが同時に注目され、サブ・レーベルのジュニア・ボーイズ・オウンと共にアンダーワールドやケミカル・ブラザーズを輩出して後のクラブ・ミュージック・ブームを牽引したという事実。そしてテクノ警察同様、『Screamadelica』をきっかけにライヴハウスからクラブへと音楽を楽しむ場のシフト・チェンジを行ったロック・ファンの流入が、90年代以降のクラブ・シーンの隆盛に多大な影響を与えたことを考えると、テクノ的世界観においても『Screamadelica』をターニング・ポイントと捉えるのは大袈裟ではないのだ。

そして、その『Screamadelica』より20年。ケヴィン・シールズ&プライマルによるリマスター盤や豪華記念ボックス、ゆかりの深い面々が振り返るドキュメントDVD、そして2010年11月にスタートし、ついに今年は〈サマソニ〉で日本に上陸してしまう『Screamadelica』再現ライヴのDVDと、いろいろとテンコ盛りのリリースだが、かつて衝撃的だったサウンドにはある程度の免疫ができており、懐かしさすら感じるのとは正反対に、91年に初めて観た時と寸分違わぬボビー・ギレスピー先生のヴォーカル力の不動のアレっぷりに感銘すら受けたのだった。後の変遷も考えると、見た目も含めたボビー先生の揺るぎなさこそプライマルなのだと、しんみり思うのだ。

 

▼文中に登場したアーティストの作品を紹介

 

PROFILE/石田靖博

クラブにめざめたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』。その後タワーレコードへ入社し、12年ほどクラ ブ・ミュージックのバイイングを担当。現在は、ある店舗の番長的な立場に。カレー好き。今月のひと言→〈テクノ警察〉的ではないですが、氷室京介の全曲BOOWYライヴ、COMPLEX復活とヤバーいの大連発でアガリ倒しです(ヒムロックのチケット先行落選)。あと岡村靖幸の復活にも号泣。岡村ちゃんの『Me-imi』は実はテクノ度が高いんですよ。