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第28回――胸躍るヤング・ソウル

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2011/07/14   18:49
更新
2011/07/14   19:09
ソース
bounce 332号(2011年5月25日発行)
テキスト
協力/北爪啓之、冨田明宏


ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!



僕は阿智本悟。フレッシュなロックが大好きな、東京は北区のサラリーマンさ。先月は思わぬ事故で入院しちゃったけど、いまはもうすっかり全快! パワーも全開! 今日という今日は会社でロックな言葉を発してやる!……と意気込んでみたものの、上司に仕事内容を問われて「あ…う…はい」と戸惑う以外はほとんど口を開かずに、終業時間を迎えてしまった。もはやそんな自分に疑問すら抱かなくなってきたけど、最新鋭のロックを求める耳だけは鈍っちゃいないぜ! ということで、今日はコールドケイヴに酔いながら、いつものあの場所に向かっている。偏屈なロックおやじ、ボンゾさんのいるロック酒場〈居酒屋れいら〉だ。

阿智本「おっす! すっかり元気になったから、いつも通り飲みに来てあげたよ! さぞかし心配していたと思うけど、このイケメン・フェイスを見たら安心したでしょ!?」

多少のブランクによる気恥ずかしさを隠そうと、テンション高めに入ってみたら……あれ? ボンゾさん!?

ボンゾ「は〜……、頭のおかしいサラリーマンが怒鳴り込んできたかと思えば、阿智本かよ。今日の俺はそういうテンションに付き合えるほどイケイケじゃないぜ」

阿智本「〈イケイケ〉なんて死語はやめてよ! 今日はずいぶん静かじゃん。どうしたの?」

ボンゾ「たまにゃ、俺も昔のことを思い出したりして、ノスタルジーに浸りたい日もあるのさ……フッ」

〈いつも昔の音楽のことしか話さないノスタル爺じゃんか!〉と突っ込もうとしたけど、それよりも遠い目をした気色悪いボンゾさんの視線の先が気になった。見ると、2人の可愛らしい男の子が写ったセピア色の写真が壁に飾ってあった。

ボンゾ「この子たちはな、俺がアメリカでウッドストックを経験した後、無一文になってハリウッドに流れ着いた時、ハウスキーパーとして拾ってくれた恩人の坊ちゃんなんだよ」

うわ〜、嘘臭い話! でも、いままでの経験から中断してもどうせロクなことが起きないし、しばらく見守ることにした。

ボンゾ「兄貴のトムも弟のジョンも、歌うことが大好きでなあ。俺が持っていたスティーヴィー・ワンダーのレコードをむさぼるように聴いていたっけ。俺もよくいっしょになってハミングしたもんさ。もう遠い思い出だな……。で、日本に帰ってからしばらくすると、どうやらあの兄弟が歌手デビューしたらしいと風の便りで聞いてよ」

……おっと。いよいよ雲行きが怪しくなってきたぞ。気付いたら軽快なピアノに乗せてソウルフルに歌う、まだ幼さの残るヴォーカルが聴こえてきた。

ボンゾ「ん? 勘付いちまったか……そう、これがその坊主たち、キーン・ブラザーズさ。デヴィッド・フォスターが手掛けたデビュー作『The Kean Brothers』も良かったが、この初CD化された2作目『Taking Off』では何とモータウンの重鎮、ラモン・ドジャーをメイン・プロデューサーに迎えやがって、とんでもないブルーアイド・ソウル名盤を作り上げちまったんだ」

話に乗っちゃうようで悔しいけど、確かにカッコイイ! こういうの、〈ディスコっぽい〉っていうのかな? イエス・ジャイアンティスにも似ているし、ヴューも新作ではちょっぴりこっち寄りに向かってたね。凄くグルーヴィーで、オシャレなクラブで流れていても全然違和感がない。僕がDJする時は使ってもいいくらいだ(注:そんな予定はナシ)。

ボンゾ「身内贔屓なわけじゃねえが、大人顔負けのセンスと躍動感はジャクソン5と比べたって負けてねえと思うぜ……脱帽したよ。まさか俺が聴かせたスティーヴィーのレコードが、あの坊主たちをこんなふうにしちまうとはな!」

恩着せがましいところはウザイけど、うっすら涙を浮かべながら身体を揺すってリズムを取りはじめたボンゾさんを見るのは悪くないし、ちょっとイイ話だな。

阿智本「これ、僕も嫌いじゃないよ。むしろ好きかも。もっと詳しく知りたいな」

〈そうだ、壁に掛かってある写真をもっと間近で見てみよう〉と近付くと……あれ? 裏に〈I§HOLLYWOOD〉の文字と〈1$〉って書いてあるじゃないか!

阿智本「これってお土産用のポストカードじゃん! さっきの話は何だったんだよ!」

ボンゾ「いや違うんだって、俺は本当にこの兄弟を知っているんだよ! 嘘だと思うならキーンさんの家に電話してみろよ……って、おい、話の途中で帰るなっつうの! てめえ、コンビーフ残すんじゃねえ!」。 



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