ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!
僕は阿智本悟。東京は北区でサラリーマン生活を送る社会のゴミ屑さ。ああ、そうだよ! 僕はゴミ屑だ! 毎日会社の雑用でこき使われ、後輩にもタメ口で話される始末。この無限地獄に叩き込まれたような日々を、どう切り抜けようか……と、思い悩んだところで何も解決しない。はいはい、もうどうにでもなれ!──そんなテンションで、今日もロック酒場〈居酒屋れいら〉の扉を引いた。
阿智本「お疲れ〜! いつものコンビーフと梅割りね!」
ボンゾ「お前はいちいち声がデカイんだよ! 言われなくたって出すから黙ってろ!」
毎度お馴染みのやりとりだ。さて、今日のBGMは何かな?
阿智本「あれれ? 〈れいら〉に似つかわしくない音楽が流れてるじゃん。妙にポップだし軽快だし、クラブ映えしそうだね」
ボンゾ「お、やっぱり反応しやがったな! これは常連客が忘れていったCDだよ。〈フジロック〉に出るとかで買ったって言ってたな。そろそろお前が来る頃だと思ってよ、気に入りそうだし、流しておいたわけさ。客思いの主人だろ!? ガハハ!」
ボンゾさん、いつの間に僕の趣味がわかるようになったんだろう……なんてしみじみしていたら、聴き覚えのある曲が!
阿智本「おお! これってハード・ファイの“E=MC2”じゃん! もうすぐ4年ぶりの新作が出るから、ちょうどこれまでの音源を聴き返していたところだったんだよ! あれ? でも、かなりアレンジが違うぞ」
ボンゾ「ああ、確かにこの曲は“E=MC2”だな。だが、お前が聴いたことのあるヤツは、恐らくこの曲のカヴァーだろう。こいつらはビッグ・オーディオ・ダイナマイトっていう、80年代にデビューした連中だ」
ん? 何だか、あんまりクールじゃないバンド名だ。耳にするのも初めて!
ボンゾ「元クラッシュのミック・ジョーンズが結成した、ロックとラップとレゲエを掛け合わせたようなバンドだが、俺に言わせりゃただのゴッタ煮ってヤツだな。こいつらのファースト・アルバム『This is Big Audio Dynamite』が未発表曲盛りだくさんの〈Legacy Edition〉としてリイシューされたんだが、いまはこういうナヨナヨしたダンス音楽が再評価されてるのかね〜。コイツらの後に出てきたジーザス・ジョーンズも来日するみてえだし、〈リヴァイヴァル〉ってのはよくわからんな」
阿智本「いや、これはカッコイイよ! 〈リヴァイヴァル〉なのかはわからないけど、かなりイマっぽい実験精神と享楽性を感じるね。何周かして、逆にアリ的なセンスがちょ〜新しい!……って感じ!?」
ボンゾ「お前、自分の喋ってることを本当に理解してんのか? 〈逆にアリ的なセンスがちょ〜新しい!〉って何語だよ? バカマヌケ語か?」
阿智本「いや、これはイマのダンス系ロック・ブームのルーツにあたる凄いバンドだと思うよ。クラクソンズやエンター・シカリ、ハドーケン!と似たような……いや、サウス・セントラルやティム&ジョーンなんかにも近いものを感じるし……これは大発見だよ!!」
ボンゾ「おいおい発見どころか、みんなが忘れかけていたバンドだぜ。俺にゃ、何でいま頃来日するのかもわからん」
妙に冷ややかなボンゾさんだけど、わからないんだろうな〜、この感覚は。
阿智本「これだから老人は困るよ! 時代が変わることで新しい光が当たり、評価されるバンドもいるという好例じゃないか。僕はこのバンド、タワレコでやっている〈踊るロック〉キャンペーンに入っていてもおかしくないと思うけど? アートVSサイエンスやダズ・イット・オフェンド・ユー・ヤー?なんかが好きな人たちにこそ、ぜひ聴いてもらいたいよ! ところで僕さ、あのキャンペーンにレディ・ガガとかcapsuleとかDJ KAORIとかを入れるのはどうかと思うんだよね。〈踊れりゃロックじゃなくてもいいんかい!〉と心の中で突っ込んでたところだよ。そもそもニューレイヴをきっかけに始まった企画でしょ!? あ、そうだ! 僕に〈踊るロック〉の選盤させろって提案してこようかな。真の〈踊るロック〉はビッグ・オーディオ・ダイナマイトだろ!ってプレゼンしてくるよ。善は急げだ、タワレコのオフィスに行ってきま〜す!」
ボンゾ「オイオイ! いま何時だと思ってんだよ! つうか、それ以前の問題か……。しかし珍しく熱く語ってやがったな。ほとんど意味不明だったが……。バカ・アチモト・ダイナマイトだな、ブハハハッ!」