こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

NEWS & COLUMN ニュース/記事

第31回――秋の夜長のプログレ談義

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2011/09/28   00:00
ソース
bounce 336号(2011年9月25日発行)
テキスト
協力/北爪啓之、冨田明宏


ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!



僕は阿智本悟。最新鋭のロックを糧に何となく日々をやり過ごしている、しがないサラリーマンさ。今日も会社帰りに立ち寄るのは、ロック酒場〈居酒屋れいら〉。マスターのボンゾさんとはますますウマが合わなくなっているけど、このまま家に帰ってもやることがないしね。

阿智本「おっす、ボンゾさん! 今日も梅割りとコンビーフにマヨネーズね……」

ボンゾ「おっほー! 君は若いのに、本物のロックがわかってるねえ。よし、梅割りをサーヴィスしてやろう、もっと飲みな!」

思いっきりシカトされたぞ……って、おや!? この店では見慣れない顔が。しかも、ずいぶんと若いお客さんだ。

中田「ふふふ。こんなロック酒場の名店が会社の近くにあったなんて、盲点でしたよ。……あっ、阿智本先輩じゃないですか。奇遇ですね」

阿智本「君は新入社員の中田君!? 驚いたよ、君がこんな薄汚い店に来るなんて」

〈テメエ死なすぞ!〉というボンゾさんの怒鳴り声が聞こえた気もするけど、あえて気付かないフリをした。中田君は今年入社したばかりの、同じ部署に所属する数少ない後輩だ。黒縁メガネのインテリっぽい容姿に違わず仕事が抜群にでき、上司ウケも良好。彼の存在のせいで、僕はますます肩身の狭い思いをしているんだよ。

中田「前を通りかかったらピンク・フロイド“Breathe”が聴こえてきたので、まさかと思って入店すると、間違いなく先日リリースされた〈狂気〉の最新リマスター音源で。それですっかりボンゾ先生とプログレ談義に華を咲かせていたというわけです」

ボンゾ「おいおい、先生だなんてこっ恥ずかしいから勘弁してくれや、ガハハ! しかし、ここまでフロイドやプログレに詳しい若者がいるなんて、嬉しいじゃねえか……(しみじみ)。俺はよ〜、71年に初めてヤツらが来日した時のライヴも観ているんだよ」

中田「〈箱根アフロディーテ〉ですね! 霧が立ち込めるなかで行われたステージは、いまも伝説として語り種ですよ!」

いったい何の話をしているんだろう。それより僕の梅割り、忘れられてない!?

中田「そもそも〈プログレ〉という呼称自体、70年作『Atom Heart Mother』の日本盤の帯に〈ピンク・フロイドの道はプログレッシヴ・ロックの道なり!〉と書かれたことから、わが国で広まったわけですから、プログレを語るうえでフロイドは避けて通れません。ボンゾ先生! 今回のリイシューでヒプノシスのストーム・トーガソンがリデザインしした、最新アートワークについてはもう語り尽くしたので、そろそろDisc-2の74年にウェンブリーで録音された未発表ライヴ音源を聴きませんか?」

ボンゾ「そうだな! そもそも俺はこれが目当てだったんだよ! スゲエや、この臨場感。40年近く前のライヴ音源もデジタル・リマスターだとここまで磨かれるってことか」

中田「同感です。感動を禁じえません」

いつまで経っても梅割りが出てこないので、僕も2人の会話に割って入ることにした。

阿智本「中田君もロックが好きなんだね! 先輩として嬉しいよ! ところで、プ、プログレってあれだろ? アニコレとか、マーズ・ヴォルタとか、アーケイド・ファイアとか、バトルスとか……ああいう変拍子を採り入れた曲の長いロックのことだよね!? UKだとミューズもプログレっぽいって聞いたことがあるよ!」

中田「違いますね(キッパリ)。アニマル・コレクティヴやマーズ・ヴォルタなどは、ポスト・ロックやポスト・ハードコアの流れから派生したという意味で正統的なプログレではなく、あくまでその影響も漂わせたオルタナ系ロック、と捉えたほうが正しいでしょう。それを安易にプログレと括ってしまうのは短絡的ですし、誤解を招きかねません。ましてやミューズなど……」

何なんだ、この超ムカツク態度! 俺は先輩だぞ!

ボンゾ「中田君、バカ本にいくらプログレの講釈をしてもムダムダ。それより今夜は最高の気分だぜ! もう店仕舞いしちまうから、とことんフロイドについて語り合おう! さあさあ、部外者は出ていった!」

そう言うと、ボンゾさんは店の隅にいた内山田ナントカさんと僕を締め出し、シャッターを降ろした。ちょっと今日のボンゾさんは酷すぎる。常連の僕をてんで無視じゃないか! 結局あのジイさんは古いロックの話ができれば、相手なんて誰でもいいんだ。ここ最近、〈居酒屋れいら〉との間に距離を感じている僕。このまま、この店に通い続ける意味はあるのかな?



記事ナビ