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Joe Henry『レヴァリー』

公開
2011/11/09   11:00
ソース
intoxicate vol.94(2011年10月10日)
テキスト
text:五十嵐正

ラフ&タンブル


この12作目のソロ・アルバム『レヴァリー』と同時期に、プロデュースを手がけたリサ・ハニガンとミシェル・ンデゲオチェロのそれぞれの新作も届く。相変わらず大忙しのジョー・ヘンリーである。この新作はほとんどを本人とピアノトリオだけで録音したアコースティック・アルバムと予告されていた。ところが、実際には「アコースティック」という言葉でイメージされるすっきりしたサウンドとは随分異なる作品になっている。

  自宅の地下スタジオに篭ったメンバーは近づけるだけ近づいたセッティングで、お互いの音がかぶり合ってもかまわずに演奏したという。そのうえ、窓を開けっ放しにして、外から聞こえてくる車の往来や風の音、近所の子供の声や鳥のさえずり、犬の吠え声も音楽の一部として録音を続けたのだ。その結果、特にアルバムの前半では、時には騒々しいくらいの混沌としたサウンドが聞かれる。ジョー自身も「これは生々しく、耳障りで、とっちらかったもの」と表現する。しばしば謎めいて、わかりにくいところもあるところがまた魅力のジョー・ヘンリーの歌の世界だが、この混沌がそこにまたひとひねりを加えて僕らを否応なしに引き込んでいくのだ。

今回は管楽器などがいないので、音楽の色調はモノトーンに近いが、ジョーはこう言う。「白黒だけど、その血管には赤い血が流れている」と。そう、確かに血がドクドクと流れている。彼のアルバムの中でも最も自然発生的な演奏の詰まった作品と言えるだろう。

アルバムの後半には、マーク・リーボウが3曲で加わり、ジョーとのギター2本を中心とした、これぞ「アコースティック」な曲で、アルバムに広がりを加える。そして、珍しく弾き語りで歌われる《ルーム・アット・アールズ》は一昨年に自殺した友人のシンガー・ソングライター、ヴィック・チェストナットに捧げた曲。悲しみと彼の人生を称える想いが入り交じる歌に胸をうたれる。