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Music Before Going To Bed

連載
NEW OPUSコラム
公開
2011/11/23   18:00
更新
2011/11/23   18:00
ソース
bounce 338号(2011年11月25日発行号)
テキスト
インタヴュー・文/村尾泰郎


鈴木惣一朗が監修する〈おやすみアニメ〉のサントラ登場!



絵



優しいけれどちょっと気が強くて、機嫌が良ければ金色の長い髪を揺らしてクルクルとダンスする──そんな可愛い森の妖精を描いたチェコ・アニメ「アマールカ」の日本版DVDブックでサントラを手掛けたのは、World Standardこと鈴木惣一朗。ユニークなのは、湯川潮音、土岐麻子、南波志帆など、曲ごとにシンガーをフィーチャーしてバート・バカラックの名曲を子守唄風にカヴァーしていること。と、聞いて思い出すのが、鈴木が以前手掛けたバカラック・トリビュート『雪と花の子守唄』だ。実はその続編を作る予定でレコーディングされていた未発表音源が、今回のサントラに使用されている。それにしても、チェコ・アニメとバカラック、この不思議な組み合わせは、鈴木本人にとっても冒険だったようだ。

「今回の企画をもらった時は、流石に〈それはおかしいだろう〉って思った。でも、テストで合わせてみると奇跡的に合ったんだよね。それはもしかしたら、僕が〈森男〉だからかもしれない(笑)。ほら、〈アマールカ〉って元祖〈森ガール〉だし。ここ10年くらい、アシッド・フォークとかオーケストラル・ポップとかを集中的に聴いてきたけど、そういう音楽を聴いていると、もはや、そこに森の幻影みたいなものが見えてくるんだよ。それで音響やナレーションも作り直す〈リサウンド〉というアイデアもいいんじゃないかと思った。〈アマールカ〉って子供が眠る前に観る〈おやすみアニメ〉だから、子守唄風にリサウンドするのもおもしろいなって」。

今回、その「アマールカ」のサントラ音源がまとめられて、『アマールカの子守唄』としてリリースされる。収録曲の半分は『雪と花の子守唄』の続編として作られていた未発表音源で、残り半分は新たにレコーディングされたもの。新録にあたっては、彼がいままで手掛けてきたほかの〈子守唄シリーズ〉同様、ヴォーカルを依頼するミュージシャンに直接会って、アレンジのアプローチを練っていった。

「実際に会うことで、相手がどんなふうに話すかを確認するんです。いつものように、お話をするように歌ってほしいから。J-Popは(普段会話する声よりも)キーを上げて歌う人が多いけど、子守唄だから歌い上げないほうがいい。そして、その人のバックボーンを全部調べて、どんな音楽のセンスの持ち主で、どんなキャラクターなのかを知ったうえで、そのシンガーも、バカラックも、自分自身もいったん分解して再構築する。それが本当の〈リサウンド〉だと思っているから」。

そして、レコーディングの時に心掛けているのが〈マイナス・ワン〉な姿勢だ。「もう一回歌ったら上手くなるところでやめてもらう。音数ももうひとつ入れたらシンフォニーになるところをひとつ外す。ミックスもマスタリングも、極端に言うと〈なんかイマイチだな〉というところでOK(笑)」ぐらいのバランスが、子守唄には丁度良いとか。

「それって不思議なんだけど、これまでやってきた結果わかったことなんだよね。空いている隙間を聴き手の気持ちが埋める。そうすることで、聴けば聴くほど音楽が良くなっていくんだよ。やっぱり、音や情報がぎっしり詰まった音楽だと頭がいっぱいになって眠れない。だからいつも、聴き手のために空いた席をひとつ作っておく」。

『アマールカの子守唄』に収められた曲は、「アマールカ」の森にぽつんと置かれた椅子みたいなもの。リスナーはそこに座って目を閉じれば、夢の世界で小さな妖精に出会えるはずだ。では眠りに落ちる前に、子守唄のプロに子守唄の魅力について訊いてみよう。

「もともとは、自分が不眠症で子守唄を作りはじめたんです。夜中に何度も起きて、そのたびに音楽を聴くから携帯プレイヤーは手放せなくて(笑)。でも、今年に入って大変なことが次々と起こって、そんななかで暖かなベッドに入って眠れることがどんなに幸福なことかも考えるようになった。そして、そういうことをいろいろ考えていくと、子守唄って、どこか祈りに通じるところがあるような気がしたんだよね。賛美歌やクリスマス・ソングに近いものというか、結局、自分にとって音楽は祈りに近いもの、ホーリーな(神聖な)ものなんだと。だから、World Standardの新作『みんなおやすみ』にも、そういう感覚は出ていると思う」。

こんなご時世だからこそ、がんばるだけじゃなくてゆっくり眠ることも大切。サントラに合わせて「アマールカ」のDVDブックもボックス化されることだし、この冬はみんなで良い夢見ませんか? 



▼〈子守唄シリーズ〉の一部を紹介。

左から、2007年作『りんごの子守唄(白盤)』(ビデオアーツ)、2009年作『雪と花の子守唄』(Living Records Tokyo)



▼これまでにリリースされた日本語版シリーズ全5作をパッケージした『アマールカ Sleeping DVD BOX』(Living Records Tokyo)