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レッドブル・ミュージック・アカデミー 2011

公開
2012/02/15   13:04
ソース
intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)
テキスト
取材・文:原雅明

フランチェスコ・トリスターノとアカデミー参加者たち
Dan Wilton/Red Bull Content Pool

新しいマスタークラスのかたち
──「レッドブル・ミュージック・アカデミー 2011」レポート

レッドブル・ミュージック・アカデミー(RBMA)は毎年世界の主要な都市で開催され、今年で13年目を迎えた。未来の音楽を創造する者たちのためのプラットフォーム作りを目的として、世界中から若いクリエイターを募り、2週間に渡ってレクチャー、ワークショップ、セッションの場を設ける。レクチャーやワークショップの講師を務めるのは第一線で活躍するアーティストや音楽関係者だ。今年はスペインの首都マドリードで10月から11月にかけての約一ヶ月間開催されたが、講師として、ナイル・ロジャースから始まって、トン・ゼー、トレヴァー・ホーン、モートン・サボトニック、エリカ・バドゥ、ウータン・クランのRZA、MFドゥーム、マーク・プリチャード、アルヴァ・ノト、フランシスコ・ロペス、グイェドゥ・ブレイ・アンボリーらを招聘した。国も世代も違えば、活動しているフィールドも違うアーティストたちの選択を見ても、このアカデミーが通り一遍の音楽スクールなどとは別物であることが伝わるはずだ。

マドリードのRBMAの会場となったのはMatadero Madridという巨大なアートスペースだった。20世紀初頭に作られた食肉処理場の跡地を再利用した施設だが、広大な敷地にはまだ使われていないスペースがたくさんあり、その一部にRBMAがスタジオやレクチャールームなどを新たに建設した。スタジオは個人や少人数で使えるものが10棟あり、グランド・ピアノやドラムが備えた付けられた本格的な録音スタジオも別にある。また、ライヴができるステージやラジオ放送のためのスタジオなども併設されていた。その場所で、多くの応募者の中から書類選考を経て選ばれた60人が、30人ずつ2週間のタームを過ごす。僕が取材で参加したのは11月13日からスタートしたターム2の方だったが、そこには欧米の他、インド、メキシコ、ベルー、トルコ、ナイジェリア、中国などさまざまな国から、音楽的な出自も異なる人々が参加をしていた。そして日本からの唯一の参加者ヨシホリカワもそこにいた。

Tom Zé
Dan Wilton/Red Bull Content Pool

フランスの【Eklektik Records】からリリースをしている彼とは東京でも面識があったのだが、講師のドリアン・コンセプトと録音をしたり、ラジオにフィーチャーされたり、短い期間ですでに伸び伸びと活動している姿を見ることができた。そんな彼からアカデミーでの毎日について話を聞いたが、午後に2つのレクチャーがある以外は、自由にスタジオを使って制作に没頭できるようになっている。参加者同士でセッションや録音をすることも自由だ。そして夜にはほぼ毎日RBMA絡みのイヴェントがあり、そこでDJやライヴをやる機会も用意されている。僕が滞在している間にも、モートン・サボトニックのライヴが現代美術のイヴェント・ホールでおこなわれたり、モードセレクターが出演するクラブ・パーティがあったり、RZAが映画館で映像と共にDJをするイヴェントなどがおこなわれた。

つまり、参加者は2週間、音楽漬けの日々を送ることになる。スタジオの設備も素晴らしいので、誰もがその場所にできるだけ長くいて作業を続けたい気持ちになるという。だが何をやるかは自分で見つけなければならない。そして、実際にスタジオに立ち寄って、制作の具体的なアドヴァイスをするスタジオ・クルーという役目をドリアン・コンセプトやローマン・フリューゲルといった気鋭のアーティストたちが務めているのも興味深かった。レクチャーもそうだったが、クリエイターが同じクリエイターに対して伝えたり、教えたりすることには、メディアに載るインタヴューなどとは少し違った言葉や表情がある。そのことは、誠実に若いクリエイターを励まそうとしていたRZAのレクチャーを聞いていて特に感じたことだが、音楽状況をめぐる変化が激しい時代だからこそ、これまでとは違うスタンスが表れる場の提供が必要なのだろう。短い滞在だったが、実際にアカデミーの現場に足を運んでみて素晴らしいと感じたのはそのことだった。もちろん、設備、ホスピタリティ、開催都市との協調など、プロジェクトとして賞賛されるべき点は他にもある。

Yosi Horikawa and Dorian Concept
Dan Wilton/Red Bull Content Pool

実は2011年のRBMAは東京で開催予定だったが、震災の影響で変更となってしまった。しかし、RBMAでは『PLAY, JAPAN!』というプロジェクトを新たにスタートさせ、日本の各地でイヴェントをサポートし、そこにレクチャーを積極的に組み込んでいる。先日も恵比寿リキッドロフトでソウルⅡソウルのジャジー・Bを迎えたレクチャーがおこなわれた。僕自身もこれまで、鈴木勲、ワタナベヒロシ(Kaito)、半野善弘、AOKI takamasaらのレクチャーのホスト役を務めたことがある。その経験からも思うのだが、伝えるべきことはまだまだたくさんあり、そしてその場はまだまだ少ない。2012年以降に改めて東京での開催を期待したい。

LOW END THEORY JAPAN 2012 feat. PLAY,JAPAN Red Bull Music Academy

3/16(金)BONDZビル特設会場6/7/8F(札幌)
3/17(土)Fab-space(姫路)3/18(日)Universe(大阪)
3/19(月・祝前日)UNIT(東京)
出演:NOSAJ THING、SAMIYAM、DADDY KEV、NOBODY、D-STYLES、NOCANDO他