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STUDIO APARTMENT

連載
360°
公開
2012/02/29   00:00
更新
2012/02/29   00:00
ソース
bounce 341号(2012年2月25日発行号)
テキスト
文/大原かおり


新展開を迎えたSTUDIO APARTMENTの過去と現在、そして……



10周年という区切りは、何かを振り返ったり集大成したりするのに最適な節目ではある。が、このタイミングでメジャー契約を手にしたSTUDIO APARTMENT(以下SA)は、ずいぶんと攻めの方向に転じてきた。国内外で名前の通用する存在として、数々の著名アーティストをゲストに迎えながら、日本のハウス〜クロスオーヴァー・シーンを切り拓いてきた彼らだが、今回登場したニュー・アルバム『にほんのうた』(まず、長年のファンにはこのタイトルが驚きだろう!)は、あえてメジャーすぎるほどメジャーな方向性をチョイスし、SAなりの〈日本の歌〉を作り出そうとしているのだ。

森田昌典(DJ/プロデュース/作曲/プログラミング)と阿部登(キーボード/作曲)によって2001年に結成されたSA。当初はベーシストも含む3人組で、ミュージシャンシップも活かしたブラジリアン・クロスオーヴァーな作風を主としていたのが、2004年のアルバム『WORLD LINE』をきっかけに彼らは飛躍を始める。そこからモニーク・ビンガムをヴォーカルに迎えた“Flight”がワールドワイドなヒットになると、以降も世界のフロアで共通言語となりうるタイプのハウス・トラックが連発され、SAの洗練されたイメージをジワジワと広げていくのだった。以降もケニー・ボビアンやステファニー・クック、キマラ・ラヴレース、AKら本場ではお馴染みの名シンガーたちが、SAの楽曲に世界で支持されるだけの理由を埋め込んでいたのだ。

そんな折に、SAがいままでやってこなかったタイプの楽曲を満載した異色の10周年記念リリースが『にほんのうた』である。タイトルの雰囲気やそこはかとなくノスタルジックなアートワークから童謡や唱歌でもやっているのかと思いきや、中身は広い意味でのJ-Popリスナーを射程に捉えたSA流儀の〈J-Popサウンド〉をものである。もちろんキマグレンやDOUBLE、福原美穂らのリミックス、あるいは鈴木亜美らのプロデュースにおいてSAなりのポップな手捌きはJ-Popフィールドで発揮されていたものの、今回はアレンジのフォーマットにこだわらず挑んだ曲も収められている。つまり、時としてハウスというタグからも自由になって、純粋にクリエイター・ユニットとして挑んだアルバムというわけだ。

そのキックオフになったのが配信シングル“キセキのうた”で、そこではSugar SoulとZeebra、RYO the SKYWALKER、May J.にSIMONという5名が参加し、アッパーなビートに乗せてラップが駆けるポップな仕上がりになっている。ダンス・トラックでは福原美穂の晴れやかな歌唱が突き抜ける“オン ザ ウェイ”もSAらしさの見える仕上がり。RIP SLYMEのSUとILMARI、そして黒木メイサをフィーチャーした“ミス ユニバース”もエレクトロ・アーバン系のド真ん中なようでいて、ロリータ・ハロウェイへのトリビュートのように“Relight My Fire”が忍ばせてある。さらにはTRFのディスコ・オマージュ曲を本人たちとスムースにリメイクした“オーバーナイト センセーション”も違和感なく盛り上がれるグルーヴィーな出来だ。

一方で、KGとMiChiによる着うたマナーのデュエット曲“誰よりも君だけを”はあきらかにいままでのSAにはなかった新境地だし、May J.とJAY'EDの“二人”も同系統のしっとりしたスロウ。いずれにせよ多様なリスナーに間口の開かれた作品であることは疑いない。しかし、10周年記念でこの内容を繰り出してくるというのは特別なフェスのようなものなのか、それともこれからの活動指針なのか——この後の動きも非常に気になる一枚だ。



▼『にほんのうた』に参加したアーティストの作品。

左から、RIP SLYMEの2011年作『STAR』(ワーナー)、黒木メイサのニュー・アルバム『UNLOCKED』(ソニー)、ケツメイシのベスト盤『ケツの嵐〜春BEST〜』(トイズファクトリー)、氣志團のベスト盤『蔑衆斗 呼麗苦衝音』、SEEDAのニュー・アルバム『23edge』(共にEMI Music Japan)、AISHAの2011年作『AISHA.EP II』(ARIOLA JAPAN)、KGの2011年作『Still Goes On....』(ユニバーサル)、MiChiのニュー・シングル“TOKYO NIGHT”(ソニー)、Sugar Soulが所属するKAMの2011年作『SPIRITUAL』(ユニバーサル)、Zeebraの2011年作『Black World/White Heat』(ARIOLA JAPAN)、RYO the SKYWALKERの2010年作『RHYME-LIGHT』(RIDDIM ZONE)、SIMONの2011年作『TWICE BORN』(STREET OFFICIAL/NEW WORLD)、TRFの96年のシングル“Overnight Sensation〜時代はあなたに委ねてる〜”(avex trax)、福原美穂の2011年作『The Soul Extreme EP』(ソニー)、May J.の2012年作『SECRET DIARY』(rhythm zone)、JAY'EDの2011年作『Your Voice』(トイズファクトリー)、雅 -MIYAVI-のライヴ盤『Live In London 2011』(EMI Music Japan)