こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

NEWS & COLUMN ニュース/記事

ピナ・バウシュ

公開
2012/05/08   16:26
ソース
intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)
テキスト
文:小沼純一(音楽・文芸批評家/早稲田大学教授)

映像と音楽で綴る、天才舞踏家の軌跡

ピナ・バウシュが亡くなって、もう3年も経つ……。

ヴィム・ヴェンダースの3D映画が公開され、ひとつの喪のかたちがあらわれた、と感じていた。だがそのときは、この世からいなくなってどれくらい、何年、だったか、〈あの日〉からどれくらいなのか、といったことは想像の埒外にあった。
なぜ?

どこからともなく映画の情報がはいってきて(新聞? ネット? クチコミ?)、だんだんと試写の具体的な日程が届きはじめ、そして一般公開へとつながってゆく。人びとのピナをめぐるおもいが、ヴェンダースの映画への感想が、また、すこしずつすこしずつ、広がっていった。この「広がり」が、試写には行けなかったけれども映画館での公開には足を運ぶ、とか、ひとりひとりの行動のありよう、浸透のしかたが、日々をおくっているわたしたちの時間の延長上にあって、わるくいえば、否応なしにだらだらとつづいてゆく日常にあって、それはピナという希有な人物の不在をものみこんでつづいてしまっていたから、なのではないだろうか。わたし、わたしたちは、ピナの喪をしっかりと果たしてはきていない、果たすことがせぬまま「その後」を生きているばかりだ。いや、ピナにかぎられたことではない。身近なひとに対してであっても、儀式的に数日をすごすばかりで、昔日のように、黒い服を着て家にこもって外界と遮断されたまま一定の時間を過ごすことなど、したくてもできなくなっている。そしてそれがため不在のものと中途半端なままにありつづけるのではないか。

ピナが亡くなって3年、とのはっきりした年月が意識されたのは、いま、この『ピナ・バウシュ・トリビュート』というプレス・リリースを前にして、だ。ここには3年などという文字はない。2009年に急逝とあるばかりだ。しかしわたしは数えている、数えてしまったのだ、09から10、11、12、と。1、2、3年、と。それは、これがほかならぬ「公演」であること、たった1回、ピナが公演何度も公演をおこなった新宿文化センターで、命日におこなわれること、によったのではなかったか。映画のように何日か、日に何度かスクリーンに映写される、電子媒体に記録されて時間や場所を問わず再生=再現されるのではなく、たった1回、そのとき・その場でのみおこなわれるから、ではなかったか。

今回おこなわれる公演について、プレス・リリースにはこうある──「2009 年に急逝した天才舞踊家ピナ・バウシュの軌跡を、希少映像の上映とトリビュート・コンサート(劇中使用楽曲他のライブ演奏)で辿る追悼公演」と。

ここにあるように、全体は、映像と演奏、2つの部分に分かれる。第一部の映像は、ピナ・バウシュ作品映像のスクリーン上映。第二部は、ピナの作品のなかで使用されたものを含む、多彩な楽曲がライヴで演奏される。ポイントは、ここである。中心となるのは三宅純。このミュージシャンをサポートするのはヴォーカルのリサ・パピノー、女性を中心としたブルガリア・コスミック・ヴォイセズ合唱団、そして、ギター、ベース、パーカッション、弦楽クァルテットほかの、比較的大きな編成。

 三宅純はパリを拠点に活躍しているが、2009年、つまりピナの亡くなった年にパリ市立劇場でおこなわれた『ピナ・バウシュ・トリビュート』にも参加しており、現在その光景はYou Tubeで視聴することができる。

そして何より、ピナの作品そのものへの楽曲提供が、このミュージシャンには実績として、ある。『Rough Cut』(05)、『Vollmond』(06)、『Bamboo Blues』(07)、『Sweet Mambo』(08)、ピナの生前、わたし、わたしたちが接しえなかった2000年代、最晩年の作品に、楽曲が提供されてきたことを想いおこしておこう。これだけ近い音楽家は、すくなくともこの列島からはでていない。そんな三宅純だからこそ、ヴェンダースの『ピナ 夢の教室』にもおなじく音楽がひびくことになったのは当然だ。

ピナの作品を、ピナの公演があった新宿文化センターの、大きなスクリーンで観る。そして、身近にいた三宅純の演奏を聴く。3年目の不在の日を、ここで、迎えたい。

PINA BAUSCH TRIBUTE(ピナ・バウシュ・トリビュート)
映像と音楽で綴る舞踏家ピナ・バウシュの軌跡

日時:6/30(土)※ピナ・バウシュの命日
会場:新宿文化センター 大ホール

[第一部] ピナ・バウシュ作品映像のスクリーン上映
[第二部] トリビュートコンサート(劇中使用楽曲他のライブ演奏)
出演: 三宅 純(tp/Pほか)、リサ・パピノー(vo)、ブルガリア・ コスミック・ヴォイセズ合唱団(F.Chor.)、落合徹也ストリングス[落合徹也(vn)藤田弥生(vn)カメルーン真希(va)村中俊之(vc)] バカボン鈴木(b)伊丹雅博(g& oud)YOSHIE(ds & perc.)他

チケットスペース:http://ints.co.jp/

©Wilfried Kruger

RELATED POSTS関連記事