ペルー伝統奏法から詩的広がりへ……堂々の自信作!
ペルーは、中南米諸国でもっともギター独奏スタイルを進化・発展させた国だ。21歳の時、そのペルーを遊学先に選んだ笹久保は、3年間に及ぶ修行とフィールドワークを重ね、すでに現地で堂々13枚のアルバムをリリースしてきた。ダウランドにアプローチした前作から一転、日本での初録音となるこの最新作では、ギタリストの道筋に曙光を照らしてくれたフォルクローレの原点へと舞い戻る。手慣れた熟練技法、自作を随所に挟んでゆく見事な構成力、何たる自信か。
あまた名手が取り上げ、世に知られてきた民謡ワイノ《さらばアヤクーチョの町》は、ファンにはお馴染み。ギタリストはまるで語り部であるかのように、低音弦に大地を踏みしめる力を込め、中高音弦には吹き渡る風の興趣を、複雑な揺らぎに託して奏でてみせる。これぞペルーで育まれた、ギター奏法の際立つ個性だ。
続く楽曲にも、旅で体得した各地の形式や独特の調弦法が活かされ、膨大なイメージを蓄え引き出しの量を増やしたギタリストの成果が凝縮されている。ペルー海岸地方のアフロ系舞曲《牛殺し(トロ・マタ)》、ラテンアメリカの「最大公約数リズム」と呼んでいいクンビア《ラ・ピラグア》など、異色の組み合わせながら、ペルーにしかと根づく有名曲が並ぶ。
ラスト《タキーレ島のシクーリ》のみ、実演不可能と記された果敢な実験。アンデスのパンパイプ、シクーリ合奏をギターに置き換えるという、とんでもない試みで、その仕上がりは、あたかも緻密に織りあげたチチカカ湖曼荼羅。そら恐ろしいアレンジとも思えるが、不思議と現地の空気と匂いは失われていない。
土地を訪ね歩き継承してきた一流テクニックと、豊穣の伝統の種子からインスピレーションを受け芽生えた、浮遊感にあふれ、詩的な広がりをもつオリジナルの数々。心地よいバランスの中にも、単なる共鳴を越えた動機があって弾いているのだという、確固たる自負を強く感じる。ジャケット写真が、また秀逸。