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ブライアン・イーノ

公開
2012/11/06   11:37
ソース
intoxicate vol.100(2012年10月10日発行号)
テキスト
文 畠中実

ミュージック・フォー?

ブライアン・イーノのアンビエント的思考は、もともと実験音楽、ミニマル音楽の手法を換骨奪胎して作られた、1975年の『ディスクリート・ミュージック』に始まる。それは「聴くことも無視することもできる音楽」から環境に同化する音楽としてのアンビエント・ミュージックへと発展し、さらに光と音と空間による総合的なインスタレーションとして展開されて現在にいたる。『ミュージック・フォー・エアポーツ』は、「アンビエント・ミュージック」の生みの親、名付け親でもあるイーノによる、「アンビエント」誕生の記念碑的作品だが、それから35年の間に、さまざまな音楽が、アンビエントを方法や様式として取り入れた。それはいわば、アンビエントという思想の誕生とも言えるのかもしれない。

『ラックス』は、ワープ移籍後の3作目となるが、イーノ単独の名義による作品としては初の作品ということになっている。また、先の『ディスクリート・ミュージック』から93年の『ネロリ』を含む、「Music for Thinking」のシリーズとして展開されたものだという。余談だが、ロバート・フリップがイーノのアイデアを自身のギター演奏に適用した「フリッパートロニクス」のみを使って制作したアルバム『ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン』は、当初「Music for Sports」と名付けられる予定であったという。イーノのアンビエント的な作品群の中には『ミュージック・フォー・フィルムス』など、そもそも映画やヴィデオやインスタレーションの「ための」音楽が多い。なにかのために機能する音楽という発想と、一方で、内面から聴く音楽、体験としての音楽、雰囲気としての音楽、などがある。ベッドに寝たきりになりながら、よく聴こえないレコードを聴いていたことによって、雨だれの音が音楽と等価になり、環境の一部となるような音楽の聴き方を示唆された、という『ディスクリート・ミュージック』を制作するきっかけとなったイーノの入院時のエピソード。それは、まさに音楽が(聴こえないこともその要因のひとつとなりながら)思考を促す触媒となった経験を物語っている。

『ラックス』の全体は、4つのパートから構成されているが、それらは緩やかにつながっている。イタリア、トリノでのサウンド・インスタレーションのために制作された音楽から発展したものだという。タイトルが示すように、それは、光線のうつろいを思わせる。

photo : Michiko Nakao

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