「心の動き」があふれでる音となって
東京・上野にある東京文化会館小ホールで開催中のコンサート・シリーズ「プラチナ・ソワレ」。同ホールは音響が素晴らしく、その音響に優れた会場で楽器の名手の演奏をじっくりと堪能する、というのが当シリーズの趣旨である。その「プラチナ・ソワレ」の第3夜(12月21日)にはヴァイオリンの堀米ゆず子、第4夜(2月22日)にはチェロのピーター・ウィスペルウェイの出演が予定されている。そして、第1夜から第4夜まで、クラシック畑の演奏家の公演が続いた後、シリーズの最終公演である第5夜(3月8日)にソロ・ピアノで出演するのが、現代ジャズ・シーンのトップ・ピアニストの一人、小曽根真だ。実は、「プラチナ・ソワレ」では、出演者の演奏曲目をホームページやパンフレットで知ることができるが、小曽根の第5夜公演に関してだけは演奏曲目を知ることができない。演奏曲は当日発表されることになっている。このあたりは、インプロヴァイザー(即興演奏家)小曽根真の面目躍如たるところだろう。
公演当日。研ぎ澄まされた小曽根の感覚はその日の「時」の移ろいに何を感じるのだろうか…。あるいは、会場に到着し、演奏が行なわれるホールに足を踏み入れて、その「場」の「空気」、そこに息づく「何か」を感じ取り、それらに自らの「呼吸」を同調させる…。そうして、ふと浮かぶ音の記憶の断片。そのような「心の動き」も即興性であり、彼の内側からあふれでた音の記憶の断片が、当日の演奏曲のいくつかに連なるかもしれない。
近年、小曽根真は、自ら率いるビッグ・バンド「No Name Horses」の演奏活動を積極的に展開する他、東日本大震災後は、米国のジャズ・ミュージシャンたちと連動しながら、震災からの復興を支援する活動も行なってきた。また、小曽根は、ジャズに限らず、国内外でクラシックのオーケストラと共演したり、演劇や映像の分野でも作曲家、ピアニストとして関わったり、ジャンルを超えて多様なコラボを実現してきて、幅広い音楽性を身につけている。第5夜の公演でも、ジャズの楽曲だけでなく、思いがけないクラシックやポップスの楽曲が彼のジャズの流儀で演奏されるかもしれない。
過去にも、ソロ・ピアノで大きな成果をあげてきた小曽根真だが、今夏に発表したアルバム『ピュア・プレジャー・フォー・ザ・ピアノ』でも表現力豊かな、味わい深いソロを披瀝している。第5夜の公演で演奏されるのは、彼のインスピレーションで選択された楽曲の数々だ。彼のピアノがそれらの楽曲に内包する「歌」をどのように紡ぎ出すのか、興味が尽きない。
©Kiyotaka Saito
LIVE INFORMATION
『プラチナ・ソワレ第5夜「ザ・ジャズ・ナイト」』
出演:小曽根真(P)
曲目:当日発表
3/8(金)19:00開演
会場:東京文化会館小ホール
http://www.t-bunka.jp/