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第63回――永遠のトータル・エクスペリエンス

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2013/02/01   20:35
更新
2013/02/01   20:35
ソース
bounce 351号(2013年12月25日発行号)
テキスト
文/林 剛


ギャップ・バンドを輩出して脚光を浴びた80年代の注目すべきレーベル



近年も即クラシックとなりうる名曲を立て続けに生み出しているチャーリー・ウィルソン。彼がギャップ・バンドのリード・シンガーだったことはよく知られているだろう。そして、80年代に活躍した彼らが全盛期を過ごしたレーベルこそトータル・エクスペリエンス(以下TE)である。

創立者はロニー・シモンズ。ミュージシャンとしてのスキルも持つ彼が、LAはサウスセントラルのクレンショー大通りで経営していた同名のナイトクラブがその始まりとされる。やがてシモンズはスタジオを開設し、77年に同名プロダクションを設立。そこで総力を挙げて制作されたのが、DJ・ロジャースの同年作『Love, Music & Life』だった。DJといえばそれ以前にリオン・ラッセルのシェルターと契約していたが、当時同じくシェルターに籍を置いていたのがギャップ・バンド。彼らはDJを介してTE入りし、マーキュリーと契約して“Burn Rubber On Me”“Yearning For Your Love”などのヒットを放っていく。これが80年前後のこと。また、それ以前より彼らと交流があった男女デュオのヤーブロウ&ピープルズもチャーリー・ウィルソンらの口利きでTE入りし、“Don't Stop The Music”などのヒットを飛ばした。ただ、ここまではTEがプロダクションだった時のお話。そうやって看板タレントを揃え、マーキュリー配給で81年にスタートを切ったのがレーベルとしてのトータル・エクスペリエンスだ。

彼らの音楽は、制作や演奏を手掛けるロニー・シモンズやオリヴァー・スコットのカラー、つまりギャップ・バンドやヤーブロウ&ピープルズの作品で聴ける、骨太で粘っこく快活なグルーヴがキモ。看板アクトたちと旧知の仲ということでレーベル入りしたグッディことロバート・ホイットフィールドのアルバムでもそれは同じだ。この頃の西海岸ではソーラーも躍進していたが、同地の腕利きがバックを支えたTEも負けていなかった。RCAが配給するようになった84年以降はジョナ・エリスやプライム・タイムのメンバーが制作の中心となり、サウンドもエレクトリックなそれに変化していく。一方でスウィッチとビリー・ポールという、モータウンとフィラデルフィア・インターナショナルのスターを迎え入れたあたりからは、名門のスピリットを継ごうとする意気込みも伝わってきたものだ。が、歴史を変えるようなヒットは出ぬまま87年にRCAとの配給契約が終了し、インディーになった直後に事実上閉鎖してしまう(現在はマインダーが事業を引き継いでいる)。

最後まで運命を共にしたのはギャップ・バンドのみ。その絆の固さは、数字で表記されていく彼らのアルバム名がロニーとの初コラボ作を起点にしていることからも窺えよう。何度も楽曲がリサイクルされているように、短命ながらもアウトスタンディングな作品を生み出したTE。チャーリー・ウィルソンのいまを知るうえでも重要なレーベルであることを改めて強調しておきたい。



▼文中に登場したアーティストの作品を紹介。
左から、DJ・ロジャースの3in2盤『It's Good To Be Alive/On The Road Again/Love, Music and Life』(Camden)、ギャップ・バンドのベスト盤『Icon』(Universal)、チャーリー・ウィルソンのニュー・アルバム『Love, Charlie』(Jive)

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