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『捧げるー灰野敬二の世界ー』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/02/03   17:41
ソース
intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)
テキスト
text:松山晋也

あとは、聴くだけ

映画『ドキュメント 灰野敬二』に続き、還暦を祝うかのごとく登場した待望の書籍。40年以上にわたる音楽活動の特異さと比類なき強度が、ようやく一般的にも認知されつつある今、タイミングとしてはドンピシャだろう。

内容は、3本の対談(ジム・オルーク、佐々木敦、後飯塚僚)、灰野の海外活動のオーガナイザー氏によるによる灰野観、海外のライターやイヴェンター等による灰野観、灰野が関わったアルバム計175本作の紹介、70年のロスト・アラーフ結成から現在に至る42年間の活動(ライヴ)記録、そしてあとがき代わりの短い本人インタヴューといった構成になっている。
灰野の言葉は常に、最速最短で本質だけをぶっきらぼうに射抜く。そしてそれが逆に、理解しづらい場合が多々ある。まるで、禅問答のように。

なので、3本の対談における他者との思考の揉み合いは、彼の考えてきた/いることをわかりやすく開示してくれ、灰野初心者にとってもありがたいはずだ。特に、「幹細胞」や「アポトーシス」、「時間」といったテーマに沿って展開される後飯塚僚(生命科学者で、自身も若い頃に身体表現活動をしていた)との対談は刺激的である。意志/欲望-細胞-表現をめぐる発言こそは、灰野の音楽の最も根元を支えてきたものだと思う。

とりわけ個人的に賞賛したいのは、ソロから不失者、滲有無、ロスト・アラーフなど様々なユニットまでグループ分けして全175枚もの作品を福島恵一たった一人でレヴューした(92ページもの分量!)ディスコグラフィのコーナー。丁寧かつ精緻な言葉でひとつひとつの音の襞に分け入った論評は、驚嘆のひとこと。福島以外の誰にもできなかったはずだ。

件の映画と本書によって、灰野は自らの意志で我々に向けて全身をさらした。あとは、聴くだけである。