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Nicholas Payton『#BAM: Live at Bohemian Caverns』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/05/13   17:36
ソース
intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)
テキスト
text:稲田利之(難波店)

BAM2.0!? レニー・ホワイト参加で新展開!

昨年ソーシャルネットワークを中心にジャズ・シーンに一石を投じ、いわゆるBAM(Black American Music)騒動なるもので注目を集めたトランペット奏者ニコラス・ペイトン。自身のヴォーカルを中心にしたクロスオーヴァー作品『Bitches』は、先の騒動に加え、そのクオリティの高さで注目を集め、大成功を収めた。新作となった「XXX trio」名義でのトリオ編成の活動では、ベースとドラムスとの最小限ユニットで様々なゲストを迎え、セッションを楽しんでいる。なかでもドラムスの人選はトリオのサウンドを大きく変化させ、新作でフィーチャーされているのは、大御所レニー・ホワイト。華やかなキャリアを誇るベテランである。

ニコラスは、ライヴではエレクトリック・ピアノの前にドカッと座り、時には鍵盤奏者になり、時にはトランペットでソロを取るということを平然と行う。この新作でもエレクトリックピアノのサウンドは、実に鮮烈で耳を奪われてしまう。そして、その強烈なサウンドは、我々リスナーのみならず、大御所レニー・ホワイトにも火をつけた。                

1969年の夏、20歳を過ぎたばかりのレニー・ホワイトは、ラテンロックバンドでのツアー中に一本の電話を受ける。スタジオに出向くと、そこにいた目を疑うようなメンツに度肝を抜かれた。その場を支配する異様なムード、緊張感、今までに経験したことのないセッションに、我を忘れてドラムスを叩いた。翌年その演奏が、『ビッチェズ・ブリュー』と言うタイトルで世間を騒がし、そこに自分のクレジットがあることに狂喜した。

ニコラスはもちろんそのことを知っている。自身のトランペットで、エレクトリックピアノで、レニー・ホワイトのDNAの中に刻み込まれた記憶を覚醒し、フラッシュバックさせる。口先ではなく、そのプレイによって、レニー・ホワイトを覚醒させた。その向こうに漂う帝王への言葉では言い表せぬ敬意と愛…。音楽のみにすべてを語らせる。ニコラス・ペイトンは、本当に恐ろしい男である。

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