土取利行
伝統とコンテンポラリー、二人のアジア人による刺激的な企画
「もし世界で第一線にたって活躍している日本人音楽家を三人あげろと言われたならば、すぐに三人の名が浮かんでくる。小澤征爾と坂本龍一、あとの一人を私はためらうことなく土取利行をあげるだろう」。五木寛之のそんな言葉を引き合いに出すまでもなく、土取の異能と個性的業績は際立っている。
70年代、フリー・ジャズ系のパーカッショニストとしてシーンに登場した土取は、その後、ピーター・ブルック国際劇団の音楽監督として30年以上にわたって世界中で活躍してきた前衛音楽家だ。その一方、故・桃山晴衣と共に郡上八幡に居を構え、銅鐸やサヌカイト、縄文鼓といった先史時代の楽器を考古学的実証に基づきながら演奏してきた。また近年は、桃山の遺志を継ぐ形で、明治~大正時代の壮士演歌の代表的存在である元祖ストリート・シンガー添田唖蝉坊の研究にも打ち込み、三味線での弾き語りもおこなっている(最近『添田唖蝉坊・知道を演歌する』なる2枚組CDも出たばかり)。そういった多彩な活動を通じて彼が一貫して追求してきたことは何か? 土取は明快にこう答える。
「“根源的な音”であり“なぜ人間は音楽を奏でるのかという問い”です。ピーター・ブルックは、たくさんあるいろんな真実を検証して、演劇によるもうひとつの真実を作ってきた。僕の音楽も同じ。縄文時代の真実と明治・大正の真実の両方を検証して、もうひとつの真実を照らし出したい」
サルドノ W.クスモ
そんな探求者が、この9月に計画しているのが、現代インドネシアを代表する舞踏家サルドノ W.クスモとの『NIRVANA-泥おん-』なるコラボ・パフォーマンスである。インドネシアの古典舞踊を極める傍ら欧米のモダン・ダンスの研鑽も積んだサルドノは、伝統を土台にした新しい身体表現の探求者として高い評価を受けている。踊りながら自分の体につけた絵の具でペインティングするという近年試みてきた手法は、今回の公演で見ることができるのだろうか?
「〈泥おん〉(ないおん)というのは、桃山が生前よく演奏していた、お経の歌がついた曲なんです。これをモティーフにして、僕がこれまでやってきた様々な音楽手法を用いて即興的にコラボレイションをする。サルドノは、仮面も使いたいと言っている」
常に伝統に意識的に向き合い、同時にコンテンポラリーな表現を目指してきた二人のアジア人によるコラボレイション。互いに、確固たるもの、譲れないものを持っているがゆえに、その違いと共通性が新しい何かを生み出すはず…そんな期待と確信を抱かせてくれる刺激的な企画である。
LIVE INFORMATION
東京文化会館 舞台芸術創造事業〜 Percussion x Dance x Art 〜
『ニルヴァーナ ─泥おん─ 土取利行 meets サルドノ W.クスモ』
9/7(土)18:00開演 一般発売:4/26(金)
出演:土取利行(音楽家、パーカッショニスト)
サルドノ W.クスモ(振付、舞踊家)
会場:東京文化会館 小ホール
http://www.t-bunka.jp/