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インタビュー

土取利行

前号でも短い紹介記事を書いたが、この9月に、現代インドネシアを代表する舞踊家サルドノ W.クスモとの「ニルヴァーナ-泥洹(ないおん)-」なるコラボ・パフォーマンスをおこなう予定の土取利行。インドネシアの古典舞踊を極める傍ら欧米のモダン・ダンスの研鑽も積み、新しい身体表現を探求し続けているサルドノと、フリー・ジャズから古代音楽まで時空を超えた音の旅を続けてきた土取の共演は、これまでにない新たなスリルと思索を観客にもたらしてくれるものと信じている。

ここに至る思いを知りたいと、土取に話を聞くこと、2時間半。裸足で学校に通った幼少期のことからフランスの洞窟での演奏まで…多くの運命的出会いに彩られた彼の人生は一本の小説になるほどドラマティックである。そして、その歩みは、常に「根源的な音」の探求に向かうまっすぐなものだった。

1950年、香川県に生まれた土取は、高度経済成長にともない田畑がどんどんコンクリートに変わってゆく中、一家で大阪への移住を余儀なくされた。

「小6の時に転校したんだけど、そこはまったく違う世界だった。旅芸人やお遍路さんもいないし、村祭で太鼓を叩く機会もなくなった」

絵を描くことが好きで、将来は虫プロでアニメーターになりたいと思っていた土取が音楽の道に進むきっかけは、高校時代、同級生に誘われてGSのコピー・バンドでドラムを叩き始めたことだった。そして、卒業した頃に初めてジャズと出会い、一気にのめりこんでゆく。大阪のジャズ喫茶で働きながら、マックス・ローチやエルヴィン・ジョーンズなどを徹底的にコピーする独学の日々の中、京大生の近藤等則と出会い意気投合、やがて一緒に上京してフリー・ジャズ・シーンに飛び込んでいった。

そこからは、刺激的な出会いと出来事の連続だ。間章が組織したEEU(Evolution Ensemble Unity)への参加、高木元輝と組んだデビュー・アルバム『Origination』(75年)や坂本龍一とのデュオ・アルバム『ディスアポイントメント - ハテルマ』(75年録音、76年発売)…そして渡米。

「私は当時から、いわゆるフリー・ジャズじゃない、もっと間を生かした新しい即興音楽を目指していた。作曲を始めたのもその頃。あと、当時のジャズや演劇シーンを支配していた左翼的思想とは距離を置いていた。醒めた目で見ていたというか。親の金で生活しながらゲバ棒で人殺しをするというのは、貧乏育ちの私にとっては極めて滑稽なことだった」

75年9月、劇音楽の仕事のためにNYに渡った土取を待ちかまえていたのは、更に大きな出会いと発見の連続だった。中でも、以前から彼が敬愛していた伝説的ドラマー、ミルフォード・グレイヴスの知己を得たことは、その後の彼のキャリアにとっても極めて大きな出来事だったはずだ。そして、劇音楽の仕事の一環でパリに滞在していた時に知り合ったもう一人の巨人が、前衛演劇界の革命家ピーター・ブルックだ。以後30年以上にわたり、ブルック劇団の音楽監督としてのキャリアを積んできたことはご存知のとおり。ブルックからの影響の大きさは、計り知れない。

「たくさんあるいろんな真実を検証して、演劇によるもうひとつの真実を作っているのがピーター・ブルックだと思う。私の音楽も同じなんです」

ブルック劇団の仕事を通して、アジアやアフリカなど世界各地の伝統音楽/文化の研究を続けつつあった土取が、やがて伴侶となる故・桃山晴衣(2008年逝去)と出会ったのも、間違いなく運命である。「語りもの」三味線の若き大家でありながら、平安時代の歌謡集『梁塵秘抄』や、明治~大正の壮士演歌の代表格、添田唖蝉坊の研究など、生涯、音楽の根源を見つめ続けたこの驚くべき異能との出会いを、彼はこう振り返る。

「82年、インドでの音楽研究から戻ったばかりだったけど、アリ・アクバル・カーンなどのインド音楽の大家たちよりも衝撃は大きかった。私が自分でも三味線を手に唖蝉坊の演歌を歌うようになったのも、当然、桃山からの影響です」

やがて二人は、即興デュオとしてライヴをおこなうようになったが、その過程で次々と出会ったのが、銅鐸、縄文鼓、サヌカイトといった日本古代の楽器である。二人は全国の遺跡を訪ね歩いて、古代楽器の響きの中から、音楽の根源の探求を続けていった。

サルドノ W.クスモ

「結局最後は、ピレネー山麓の旧石器時代のトロア・フレール洞窟での演奏まで行き着いてしまった」しかし、当然、銅鐸も縄文鼓も誰も聴いたことがないし記録も残っていない。つまり、自分の頭で想像して演奏するということか。

「いや、想像などしない。楽器と向かい合った時に、音は出てくる。その楽器が持っている音が。私は、そこにいる精霊たちと交信するために、何時間もじっと集中し、精霊たちが闊歩する真夜中から明け方にかけて音を出すんです。私は、縄文鼓から演歌までやってきて、音楽の始まりというものがわかった。

わかるというのは、全身全霊でわかるということ。音そのものでわかるということ。頭ではなく」

音楽はどこから生まれたのか…その問題意識の根は、香川での幼少期までたどれるという土取。

「子供時代に見たお遍路さんの歌。あの体験がなかったら、私は今、こういう音楽をやってない。私はいつも、闇を求めてきた。闇が生きていた時代を知っている。芸能の原点は闇。闇こそが芸術なんです」

果たして、9月のライヴではどのような闇を見せてくれるだろうか。

LIVE  INFORMATION
東京文化会館舞台芸術創造事業
〜 Percussion x Dance x Art 〜
『ニルヴァーナ-泥洹- 土取利行 meets サルドノ W.クスモ』  

9/7(土)18:00開演
出演:土取利行(音楽家、パーカッショニスト)
サルドノ W.クスモ(振付、舞踊家)
会場:東京文化会館 小ホール

http://www.t-bunka.jp/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年07月22日 16:11

ソース: intoxicate vol.104(2013年6月20日発行号)

interview&text:松山晋也