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AOKI takamasa『RV 8』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/07/04   20:02
ソース
intoxicate vol.104(2013年6月20日発行号)
テキスト
text:久保正樹

分裂・結合を繰り返す8つのグルーヴ。進化を遂げたAOKI流音響ファンク作。

90年代半ばより制作環境にいち早くコンピュータ/ソフト・ウェアを導入して独自の音響表現を実践。映像作家・高木正勝とのユニット=SILICOMで鮮烈なデビューを飾ったAOKI takamasa(現在巷で聴かれる一部の音響音楽はここで既に完成している)。2004年にパリに、そして2008年にはベルリンに活動の拠点を移すなど(現在は大阪在住)、ずば抜けて高い意識と音楽性でワールドワイドに活躍し、その後のエレクトロニック・ミュージックをリードし続ける彼が、5年ぶりとなる新作をドイツの名門RASTER-NOTONよりリリースした。

この『RV8』、タイトルの由来は「Rhythm Variation 8」からということで、連連たるリズムとグルーヴのヴァリエーションが用意されている。前作『PRIVATE PARTY』以降、RASTER-NOTONや、スイスの新興レーベルSVAKTから12インチをリリースするなど、そのサウンドがよりシンプルによりストイックに研ぎ澄まされていくのを耳にはしていたものの……正直、ここまで機能美とエネルギーに満ちたミニマリズムを聴かせてくれるとは思わなかった。いつになく低音の効いたキックと足回りのよいベースライン。めっぽうシャープなのにスポンジのように富んだ伸縮性。ランダムで奇異をてらった面白さというよりも一音一音丁寧に作り込まれた面白さ。そして、砂原良徳のマスタリングによりさらに研磨された美しすぎる音のフォルムと光沢。

3年前、彼にインタヴューした時に語っていた「できる限り自然なバイオリズム、物理法則にかなったタイミングで音を鳴らすことをずっとやってきた」という言葉通り、すべての音が必要なところに存在し、ポップの名の下に必然的なテンポと鳴りを宿す音楽。迷いのない、まるで呼吸をするように感覚的で正確なリズムミュージック。それは複雑に入り組んだ突起だらけの海岸線のようでいて、じつに滑らかに調和された宇宙のシステムを描いている。