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Hans Ulrik&Lars Jansson Trio

公開
2013/07/08   12:52
ソース
intoxicate vol.104(2013年6月20日発行号)
テキスト
text:上村敏晃

北欧の名手ふたりによる、親密に醸成された、美しく優しい響き

特別限定盤として発表された『 エクリブリウム+』は、北欧ジャズを代表する2人の奏者の共演作だ。2人とは、デンマークのサックス奏者、ハンス・ウルリクと、スウェーデンのピアニスト、ラーシュ・ヤンソン。ラーシュはたびたび来日しているので、彼の優れた演奏力、高い音楽性に触れたことのある日本のジャズファンは多いであろう。片やハンスは、まだわが国では、熱心なジャズファン以外にはなじみの薄い存在であるかもしれない。ハンスは65年生まれ。発表したリーダー作は15作。優に100作を超えるレコーディングに参加し、ジョン・スコフィールド、ニルス・ラン・ドーキー、スティーヴ・スワロウといった、国内外の名だたる奏者と数多の共演を重ねている実力者だ。

ハンスは94年発表のリーダー作ですでにラーシュのトリオと共演しているのだが、久方ぶりにラーシュのトリオと共演したのが、昨年録音の本作だ。じつは、この限定盤には94年作から選りすぐられた5曲が追加収録されている(曲によって、パーカッションのマリリン・マズール、女性シンガーのモナ・ラーセンが参加)。筆者は、この5曲を加えたことで、本作は、結果的に内容に厚みが与えられ、アルバムの作品としての造形がより立体的に感じられるように生まれ変わったと理解した。収録曲は、2人のオリジナル12曲とカヴァー2曲の、全14曲の構成である。

90年代初頭から何度も共演を重ねてきた2人。ハンスがラーシュを先達として敬愛していることもあり、この共演作には親密な関係性から生まれた、豊かな音の世界が広がっている。そして、ハンスとピアノ・トリオとのあざやかな連係……たとえば、心優しいピアノの序奏で始まる《ヒルダ・スマイルズ》では、それに共鳴するかのように演奏されるハンスのソプラノが、何ともゆったりした平和な心持ちに誘ってくれる。また、《ホレス》では、ハード・バップを演奏する気概が充満する中、そのグルーヴするリズムに乗っての、潔い吹きっぷりのテナーが痛快だ。さらに、牧歌的な風景が描き出される《ジス・イズ・ザ・ウェイ〜》では、ラーシュのピアノの音色とハンスのソプラノの音色が溶け合う幸せな瞬間が訪れ、《アト・ワンス〜》でのテナーとピアノの対話からは静かな美しさが生まれている。どの曲でもハンスはサックスをたっぷり歌わせるが、その醸成された音色・響きは、聴き手の心を解き放つ力を持っている。他にも、デンマークの著名な作曲家の曲では北欧の風土の色彩感・情緒が描き出され、コルトレーンの曲では彼の音楽に内在するスピリチュアルな世界観が表現され、聴きどころは多い。北欧の傑出した才能の、見事な共演である。