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Sidsel Storm

公開
2013/08/29   12:18
ソース
intoxicate vol.105(2013年8月20日発行号)
テキスト
text:芹沢孝太郎

スカンジナビアン・ララバイ

顔から落ちそうなほど大きいグリーンの瞳、芯の強さを感じさせるクッキリとした鼻筋の、どこかエキゾチックな雰囲気をもたたえた美しい女性のポートレイト。アルバム冒頭から有無を言わせず聴き手を引き込む歌唱力、メロディアスながら力強いバックの演奏。何よりも、鼻先からかすかに漏れるハスキーで張りのある歌声。デンマーク出身のジャズ・ヴォーカリスト、シゼル・ストームの2010年のセカンド・アルバム『スウェディッシュ・ララバイ』は、日本のCDショップのジャズコーナーを中心に異例のヒットを記録。無名のシンガーだった彼女が、特別な宣伝も無く、欧米のメディアで賞賛を浴びたわけでなかったにも関わらず、ここまでの支持を得たのは、ひとえに売り場でひときわ目をひくジャケットと、そのインパクトに劣らぬアルバムの出来ゆえだったことは間違いない。

シゼルはこれまでに4枚のアルバムを発表していて、2008年のデビュー作『Sidsel Storm』は「デンマーク音楽賞」で最優秀ジャズ・ヴォーカル作品に輝いた。コペンハーゲンの音楽学校でジャズを学び、一時期はロックバンドにも在籍していたという情報もあるが、公式なバイオグラフィは少なく、正確なところは定かではない。日本国内でも熱心なジャズ・ヴォーカルファンだけに知られる存在だったこともまた事実で、そんな彼女の魅力をコンパクトにまとめた本邦初のベストアルバムが登場した。

本アルバムは、『スウェディッシュ・ララバイ』に収録の《オール・オア・ナッシング・アット・オール》で幕を明ける。シナトラのヒット曲として知られるスタンダードだが、ここではテンポの速いアフロ・キューバンのリズムに小気味良いピアノのリフが乗り、一気呵成にリスナーを引き込む。続く《ス・ワンダフル 》
は現時点での最新作『ナッシング・イン・ビトイーン』(2012年)に収録された曲で、軽快なフォービートに乗った伸び伸びとした歌いっぷりが気持ちいい。「デンマーク音楽賞」受賞のデビュー作『Sidsel Storm』からは《マイ・フェイヴァリット・シングス》と《エンジェル・アイズ》を収録。初々しさが残る声の中に、後に完成をみる彼女の才気が捉えられている。

バックを務めるミュージシャンたちの演奏も大きな魅力だ。スウェーデンのヴェテラン・ピアニスト、ラーシュ・ヤンソン、デンマークの俊英ピアニスト、マグナス・ヨルト、ドラムのモーテン・ルンドといった北欧の名手が集結している。

本作のセレクトから漏れた中にも、まだまだ良い曲がたくさんある。だからまずはこのベスト盤で、シゼル・ストームの魅力を発見してほしい。