左:小曽根 真 ©Yow Kobayashi 右:バキート・デリベラ ©Great The Kabukicho
「Music Weeks in TOKYO」は2013年で4回目を迎える音楽フェスティバル
世界的な音楽都市である東京でこそ出来る音楽文化の活性化、創造力の向上を目指し、「参加性」と「創造性」を柱とした様々な音楽事業を展開している。これまでの公演では、例えばオーディションによって選ばれたメンバーによる「スーパー・コーラス・トーキョー」をヘルムート・ヴィンシャーマン、エリアフ・インバルなどの名匠が指揮をするコンサートがあり、「まちなかコンサート」として都内各地でコンサートを展開し、さらには一流演奏家によるマスタークラスなどが行われて来た。
さて2013年だが、さらに強力で魅力的なラインナップによる公演が予定されている。まずメイン公演として行われるのが、ジャズ・ピアニストの小曽根真、ラテン・ジャズ界の巨匠パキート・デリベラ(クラリネット、サクソフォン)が共演する「Jazz meets Classic with 東京都交響楽団」。小曽根がアメリカで活躍していた時代から、お互いにその音楽に惹かれ合って来たというパキート・デリベラ。ラテン・ジャズの世界の巨匠であるだけでなく、クラシック音楽でも素晴らしい演奏を披露してきた。ヨーヨー・マのプロジェクトへの参加でも知られている。このふたりが参加するのがモーツァルトの「クラリネット協奏曲」。ソロのクラリネットをパキートが演奏するだけでなく、小曽根もピアノで演奏に加わり、通常のモーツァルトとはひと味違った世界をそこに作り出す。まさにJazzとClassicが出会い、ひとつになる。さらに小曽根はジョシュア・タン指揮、東京都交響楽団と、ラフマニノフの最後の大作と言える「パガニーニの主題による狂詩曲」を演奏する。後半には小曽根とパキートによるジャズ・セッションが行われるが、これは何が飛び出すか想像も付かないエキサイティングな共演になるだろう。この演奏会は東京文化会館(上野、10月26日)だけでなくパルテノン多摩(多摩センター、10月27日)でも行われるから、上野は遠い、という方はぜひパルテノン多摩に聴きに行ってみてほしい。
そのメイン公演の関連企画として、小曽根真は11月2日にワークショップ「自分で見つける音楽」を行う。ジャズに限らず、音楽家を志す演奏家に、アドリブ/インプロビゼーションを通して、自分自身の音楽をコンサートで表現するにはどうしたら良いか、という視点で小曽根が共に考えて行くというワークショップ。音楽家だけでなく、一般の方が聴いても参考になるような内容だというから、自己表現を模索している方はぜひ参加してみよう。
世界的な演奏家をシリーズで紹介する「プラチナ・シリーズ」は全部で6回のコンサート
まずオランダからやって来る女声アカペラ・コーラス「ウィッシュフル・シンギング」。バロック時代のコーラス曲から、ビートルズ、日本の歌まで、幅広いレパートリーでその美しいハーモニーを響かせる。オランダの音楽院で学んだ5人組で、ハーモニーも美しいが、ステージ上のパフォーマンスも面白そうだ(10月18日)。
続いてはアルゼンチン出身のピアノ界の巨匠ブルーノ=レオナルド・ゲルバーによるオール・ベートーヴェン。「月光」「熱情」などの名曲を披露する。アルゲリッチ、バレンボイムと同じヴィンチェンツォ・スカラムッツァの弟子で、パリに留学してあのマルグリット・ロンの最後の弟子となったゲルバー。ベートーヴェン、ブラームスなど、ドイツのピアノ音楽の正統的な解釈者として、世界各地で高い評価を受けている。もちろん日本でもその演奏のファンが多い。今回はオール・ベートーヴェンということで、ゲルバーの本領が発揮されるだろう(10月19日)。
堤剛とルドルフ・ブッフビンダーという巨匠ふたりがタッグを組んでベートーヴェンのチェロ曲のツィクルスを行うのも楽しみだ。全5曲のチェロ・ソナタだけでなく、モーツァルトの「魔笛」の主題による2つの変奏曲なども演奏される。ブッフビンダーと言えば5歳でウィーン音楽大学に入学を許されたという天才少年で、その後世界的に活躍。現在はベートーヴェン音楽の解釈者として揺るぎなき地位を獲得している。そしてその雄渾でスケールの大きな音楽で魅了する堤剛。ふたりが作り出すベートーヴェンの世界には、音楽的な魅力がたっぷり詰まっている(11月7、10日)。
そして2014年になるが、バリトンの河野克典とソプラノの小林沙羅による2つの「冬の旅」の演奏会がある。小林は松本隆訳による日本語によってシューベルトの傑作を歌う。そして河野はオリジナルのミュラーによるドイツ語詩の世界を歌う。もともとシューベルトが晩年に書いた歌曲集「冬の旅」を、女声歌手が歌うということは少なかった。多少の例外はあるが多くはメゾ・ソプラノ。近年ではソプラノのクリスティーネ・シェーファーが取り上げて話題となった。その「冬の旅」をソプラノが日本語で歌う。どんな風景が広がるのか、とても楽しみだ。そして河野のオリジナル・ドイツ語による「冬の旅」。ふたつの違う旅を、一夜で体験することが出来る(2014年1月31日)。
最後の第6回のコンサートは「武満徹ソングブック・コンサート」。ショーロクラブが、アン・サリー、沢知恵、おおたか静流などのヴォーカリストたちと共演し、武満徹と深い親交のあった詩人・谷川俊太郎が朗読を行う。谷川は武満の「死んだ男の残したものは」の作詞者でもある。ショーロクラブのアコースティックな響き、そして多くのヴォーカリストの声によって、武満の歌の世界が彩られることになる(2014年3月8日)。
様々な形で行われる「まちなかコンサート」、参加アーティストによるワークショップも!
「まちなかコンサート」も様々な形で行われる。「芸術の秋、音楽さんぽ」と題して、東京文化会館のキャノピー、上野公園内の博物館などでもコンサートが行われる。東京音楽コンクールの入賞者など若手の演奏家によるアンサンブルが出演し、すべてのコンサートが無料なので、HPなどで詳細をチェックしてほしい(9月28日〜)。また10月20日には「まちなかスペシャルvol.2」として「Navigatorコバケンのクラシック入門」が開催される。これは炎の指揮者こと小林研一郎が、クラシックの中の名曲を選び、その魅力を分かりやすく伝えるもの。演奏家は東京音楽コンクールの入賞者などが集まっている。ヴィヴァルディの「四季」、シューベルトの「鱒」、アンダーソン、エルガー、プッチーニなど、一度は耳にしたことがある名曲が並ぶプログラムだ(10月20日)。
さらに、「ミュージック・エデュケーション・プログラム」として、ウィッシュフル・シンギングによるワークショップ(10月16日)、堤剛によるマスタークラス(11月3日)が行われる。これはコンサートだけでなく、次世代の演奏家を育てる企画として重要なものだ。さらに「国際連携企画〜カーザ・ダ・ムジカ」も行われる。ポルトガルのポルトにある音楽専門施設カーザ・ダ・ムジカによる教育的なプログラムは、地域との連携なども視野に入れた音楽教育プログラムとして注目を集めている。ポルト出身のジュルジュ・プレダンスが作るその様々なプログラムを体験しながら、音楽を通して新しい世界を発見しようという教育的なプログラムとなる。12月8日からの期間と、2014年2月8日からの期間と、少し異なる時期に盛りだくさんなワークショップが行われ、子供も大人も家族一緒に参加出来るものが用意されているので、これも詳細はHPをチェックしてほしい。
この秋、様々な音楽イヴェントが開催されるが、「Music Weeks in TOKYO 2013」はクラシック音楽をより身近に感じることが出来るイヴェントとして、多彩なプログラムを用意している。「まちなかコンサート」のように無料公演もあるし、ワークショップなどを覗きに行くのも、普段と違う音楽の味わい方を教えてくれるかもしれない。上野なら、美術館、博物館などを合わせてコンサートを楽しむことも出来るだろう。自分なりの歩き方で、音楽散歩を楽しんでみよう。
LIVE INFORMATION
『Music Weeks in TOKYO 2013 ミュージック・エデュケーション・プログラム』 〈コラボレーション・プログラム〉
ウィッシュフル・シンギング ワークショップ
○10/16(水)18:30開講(20:30終了予定)
会場:東京都江戸東京博物館 1階ホール
堤 剛マスタークラス(チェロコース)
○11/3(日) 10:30開講(13:30終了予定)
会場:東京文化会館 小ホール
『Music Weeks in TOKYO 2013 まちなかコンサート』
まちなかスペシャルvol.2~Navigatorコバケンのクラシック入門~
○10/20(日) 14:00開演
ナビゲーター:小林研一郎(東京文化会館音楽監督)
依田真宣 /塩田 脩(vn)、瀧本麻衣子(va)藤井 泉(vc)、髙橋洋太(b)、 多田将太郎/川村 大(tp)、氏家 亮(hr)、藤原功次郎(tb)、柳生和大(tb)、村上敏明(T)、冨永愛子/土屋麻美(P)
会場:東京文化会館 小ホール
http://www.t-bunka.jp/
『Music Weeks in TOKYOメイン公演 小曽根 真&パキート・デリベラ“Jazz meets Classic”with 東京都交響楽団』
●10/26(土)&27(日) 15:00開演
出演:小曽根 真(P) スペシャル・ゲスト:パキート・デリベラ(cl、sax) ジョシュア・タン(指揮) 東京都交響楽団(第一部のみ出演)
[第一部] モーツァルト:クラリネット協奏曲 イ長調 K.622
※オリジナル版にピアノも加わる特別版で演奏します。
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 op.43
[第二部] ジャズ・セッション 小曽根 真×パキート・デリベラ
会場:東京文化会館 大ホール(26日)/パルテノン多摩 大ホール(27日)
『Music Weeks in TOKYO 2013メイン公演特別企画 小曽根真ワークショップ「自分を見つける音楽」』
11/2(土)15:00開演 会場:東京文化会館 小ホール
『Music Weeks inTOKYO 2013 プラチナ・シリーズ』
●第1回 10/18(金)19:00開演
ウィッシュフル・シンギング “奇跡のアカペラ・アンサンブル”
●第2回 10/19(土)14:00開演
ブルーノ=レオナルド・ゲルバー “ベートーヴェンへのオマージュ”
●第3回 11/7(木)19:00開演
堤 剛&ルドルフ・ブッフビンダー “ベートーヴェン チェロ・ソナタ ツィクルスI”
●第4回 11/10(日) 14:00開演
堤 剛&ルドルフ・ブッフビンダー “ベートーヴェン チェロ・ソナタ ツィクルスII”
●第5回 2014年1/31(金)18:30開演
河野克典&小林沙羅 “ミュラーと松本隆 2つの「冬の旅」” 9/14(土)発売
●第6回 2014年3/8(土)19:00開演
武満徹ソングブック・コンサート 9/14(土)発売
会場:東京文化会館 小ホール
http://www.t-bunka.jp/