グリニッジ・ヴィレッジのフォーク・シーンが甦るサウンドトラック
50年代後半から60年代にかけて、学生街として賑わったNYのグリニッジ・ヴィレッジ。コーヒーハウスではフォーク・シンガー達がギターを片手に歌い、街はフォーク・リヴァイヴァル・ムーヴメントの拠点になった。そして、そこからボブ・ディランやフレッド・ニール、ピーター、ポール&マリーなど様々なアーティストが登場したが、コーエン兄弟の新作『Inside Llwyn Davis』は、そんなグリニッジ・ヴィレッジを舞台に一人のシンガーの一週間の出来事を描いた物語。本作はそのサントラで、プロデュースを手掛けたのはコーエン兄弟の信頼が厚いT・ボーン・バネットだ。
今回、コーエン兄弟はディランに影響を与えたフォーク・シンガー、デイヴ・ヴァン・ロンクの自伝をヒントにしているらしく、主人公のルウェイ・デイヴィスを演じるオスカー・アイザックは、ヴァン・ロンクのレパートリーだった「Hang Me, Oh Hang Me」を披露するほか、マムンフォード&サンズのマーカス・マムフォードとの共演曲も収録されている。またミュージシャンのジャスティン・ティンバーレイクがキャスティングされていて、アイザックや共演者とピーター、ポール&マリーばりの洒脱なハーモニーを聴かせているのも聴きどころのひとつ。そのほか、ブルー・グラスの新鋭、パンチ・ブラザーズや御大ナンシー・ブレイクらが参加。さらにボブ・ディランの未発表曲「フェアウェル」やデイヴ・ヴァン・ロンクのナンバーも収録されて、グリニッジ・ヴィレッジ・シーンにリスペクトを捧げている。コーエン兄弟とバーネットとのコラボレートといえば、カントリー・ミュージックを題材にしてグラミー賞を受賞したサントラ『オー、ブラザー!』が有名だが、今回はフォーク・ソングを通じてアメリカのルーツ・ミュージックの世界を探求。シンガーに挑戦する役者達の歌い回しや曲のアレンジなど、バーネットの細やかなプロデュースが行き届いたサントラに仕上がっていて、まだ見ぬ映画の“予告編”として期待を抱かせるには充分な内容だ。