ショーロクラブwithヴォーカリスタス and谷川俊太郎
©福井鉄也
後世にのこし、さまざまなところで演奏され、その名が伝わり、広まる、ということがどれほど作曲家はどの程度まで意識するものだろう。毎週欠かさず演奏されるというのが決まっていて、毎日のように楽譜を書き、演奏家を手配し、というバッハのような存在は、おそらく、あまり意識していなかっただろう。
どんな音楽でも、演奏するひとがいなければ、忘れられてしまう。これは大事なことだ。たとえさまざまなかたちで録音が行きわたっているにしても。録音以前なら、伝説にさえ、容易になりえなかったのだ。
武満徹の音楽は多岐にわたる。あらためて確認するまでもない。コンサートホールで演奏されるべく書かれた音楽があり、映画の音楽があり、映画や劇やさまざまな機会のために書かれたソングがある。
映画の場合は、映画がかかるたびに音楽もながれる。生演奏は必要ないし、もともと録音されたものだし。DVDやBLでもリリースされているならなおのこと。ソロやデュオ、あるいは、もうすこし人数が必要なコンサート用の作品なら、容易に演奏することが可能だ。だが、オーケストラ作品となるとそうもいかない。ましてや特殊な編成、ヴィルテュオーゾを必要とするなら、なおさらだ。
ソングはもっとも身軽で、自由に羽ばたいてゆける音楽である。コーラスになったり、アレンジされてギターやピアノとうたわれたり。誰も知らない、気にしないところで、鼻歌っぽくうたわれることだって。武満徹が「無名性」といったありようを体現できるのは、ほかならぬ、ソング、なのかもしれない。
すでにリリースされ、好評を得ている『武満ソングブック』。おなじようなタイトルのアルバムは少なからずあって、大抵は歌い手と共演者は1枚ずっと変わらない。というか、その歌い手と共演者による「武満作品集」としてリリースされる。だが、ここにあるのはヴォーカリストの多彩さとアレンジのやり方を自在に組みあわせ、それまでになかった風とおしの良さを実現できたところに意味がある。ヴォーカリストたちの声の違いも大きい。
すでに何か所かでコンサートがおこなわれているのだが、東京文化会館でおこなわれるコンサートは貴重だ。今回は、谷川俊太郎の朗読もある。しかも、ここでは、武満徹のコンサート作品が数え切れないほど演奏された場所、にほかならない。
武満徹のソングを聴く。そして、いつしかおぼえてしまう。さらに、気づかぬうちに、口ずさんでしまう。そんな音楽の、からだへのはいりかたを、亡き作曲家はきっとよろこんでいるはずだ。
LIVE INFORMATION
Music Weeks inTOKYO 2013 プラチナ・シリーズ 第6回
『武満 徹 ソングブック・コンサート』
○3/8(土) 19:00開演
【出演】 歌:アン・サリー/沢知恵/おおたか静流/おおはた雄一/松平敬/松田美緒/tamamix 演奏:ショーロクラブ:秋岡欧(bandolim)笹子重治(g)沢田穣治(cb) 詩 朗読:谷川俊太郎
【曲目】武満徹:三月のうた/死んだ男の残したものは ほか
【会場】東京文化会館 小ホール