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(第15回)危なっかしい雰囲気の歌声が魅力のヴェテラン、ブレンダ・レイ

連載
岡村詩野のガール・ポップ今昔裏街道
公開
2013/08/28   13:00
更新
2013/08/28   13:00
テキスト
文/岡村詩野


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ライター・岡村詩野が、時代を経てジワジワとその影響を根付かせていった(いくであろう)女性アーティストにフォーカスした連載! 第15回は、危なっかしい雰囲気の歌声が魅力のヴェテラン・シンガー、ブレンダ・レイ



今月ご紹介するのはブレンダ・レイという英国人女性です。実は、この人の名前を認識したのはそんなに昔のことではありません。5、6年ほど前に『Walatta』というブレンダ・レイ名義のアルバムを偶然手にして、その存在を知ったという次第。しかし、その時の衝撃はハンパないものでした。これはまるでニュー・エイジ・ステッパーズやポップ・グループをバックにアニー・ロスやブロッサム・ディアリーが歌っているような感じじゃないか!と。あるいは、ヤング・マーブル・ジャイアンツがダブ化、もしくはサイケ化したらこんな感じかも!とか。

つまり、イビツなダブのトラックに、可愛らしいウィスパー・ヴォイスを乗せた……という個性。そんな彼女、ジャマイカのアーティストたちとレコーディングしたこの『Wallatta』自体は2006年の作品ですが、70年代後半には英国ですでに活動していて、エイドリアン・シャーウッドらと交流もあったというから驚きです。アリ・アップが率いたスリッツや、ネナ・チェリーの在籍したリップ・リグ・アンド・パニックがカリスマ的な人気を得て、彼女たちの遺伝子を受け継いでいるようなポーティスヘッド、マッシヴ・アタックらがその周辺で影響力を維持しているなか、この〈レディ・ダブの秘宝〉は、2000年代半ばくらいまでほぼ無名。というか、いまでもまだほとんど知られていませんが……。

かつてリヴァプールとマンチェスターあたりを拠点としていたブレンダ・レイの関連作品が近年CD化されています。彼女がジャズ畑出身の仲間と組んだトリオ=ナッフィー・サンドイッチ、ブレンダとフレディ・ヴィアダクトとのデュオ=ナッフィーなどのユニットで70年代から80年代にかけて多くの音源を制作していました。それらがまとめられたのが、『D'Ya Hear Me!: Naffi Years, 1979-83』『Hoochie Pooch/Space Alligator: Freddie Viaduct At Naffi H.Q., 1979-83』といった作品。いずれも、レゲエをやろうとしたわけでも、ダブの手法にこだわったわけでも、パンクの精神云々を振りかざしたわけでもない、どこにもお手本を持たないような極めてユニークな曲が聴けます。特にナッフィー・サンドイッチの曲は、フリージャズとレゲエを混ぜて緩く撹拌したような内容で、転じて怪しいサイケデリックな仕上がりになっているのがかえって今風というか新鮮でおもしろい! なのに決して計算で作り上げたものではないんだろうなと。あくまで瞬間のひらめきを重視した風通しの良さ、気の抜けたハンドメイド感、人懐っこさやポップな佇まいなどが真っ先に伝わってくるのです。そのなかで愛らしさと奇妙さが混在したブレンダのヴォーカルがまた何とも愛らしい!

彼女の歌を聴いて思い出すのは、キャプテン・センシブルの“Happy Talk”などでコーラスを担当していたガールズ・ポップ・バンドのドリー・ミクスチャーや、トレイシー・ソーンもメンバーだったマリン・ガールズ、あるいはレインコーツ、そしてヤング・マーブル・ジャイアンツのアリソン・スタットンなどなど。危なっかしい雰囲気こそが魅力なのではないかと思うのです。

いまのブレンダ・レイは、作曲、演奏、エンジニアリングをすべて一人でこなせるマルチ・アーティスト。目下の最新作で彼女の名前を多くの人が知ることとなった前述の『Walatta』は、ルーツ・レゲエを下地にしたオーセンティックな曲調ながらも、一人でヴォーカルやコーラスなどをオーバーダビングした一枚でした。そこでもやっぱりどこかに頼りなさげでコケティッシュなムードが漂っている。次のアルバムが届けられるのはいつになるかはわかりませんが、個人的にはワープとかニンジャ・チューンあたりと組んだらハマるのではないかと思います。