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Preservation Hall Jazz Band

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2014/03/10   10:00
ソース
intoxicate vol.108(2014年2月20日発行号)
テキスト
text:小林伸太郎


PHJB_A
©Dino Perrucci

 



ニューオーリンズの伝統、恐るべし!

フレンチ・クオーターという街を、ご存知だろうか?アメリカはルイジアナ州、ジャズ発祥の地・ニューオーリンズの旧市街であるフレンチ・クオーターは、フランス植民地時代の雰囲気を今でも残す、エキゾチックな古い街だ。フランスやスペイン、アフリカ、そしてクレオールなど様々な文化の混在に育まれたこの街は、そこにいるだけで理由もなくエキサイトしてしまう、猥雑で熱いエネルギーに溢れている。そんな街を本拠地とするバンド、プリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンド(PHJB)が去年の11月16日、ニューヨークの名門、アポロ・シアターに初めて登場、ライヴを行った。

PHJBは、公民権運動の真っただ中だった1961年に、伝統的なニューオーリンズ・ジャズの保存と継承を目的にオープンした、プリザヴェーション・ホールというライヴハウスの専属として誕生したバンドだ。以来トラディショナル・ジャズの素晴らしさを伝え続け、2012年1月には50周年記念コンサートを音楽の殿堂、カーネギー・ホールで行っている。そんな彼らが昨年、バンド史上初めてオリジナル書き下ろし曲だけを収録したアルバム、『ザッツ・イット!』をリリースした。アポロ・シアターのライヴも、半分以上がこのニュー・アルバムの曲で固められた。

下は30歳代から、上は81歳まで、幅広い年齢層の8人で構成されたPHJB。まだ27歳だというゲストのジョナサン・バティストも加えると、それはヴァラエティに富んだメンバーなのだが、この日の白熱したライヴには、その懐の深さをまざまざと見せつけられたような気がする。81歳のチャーリー・ゲイブリエルのようなベテランが、クラリネットとテナー・サックスを持ち替え、ヴォーカルまでこなす余裕のエレガンスを聴かせれば、バティストのような若手がそれに負けじと燃える。すると今度は別のベテラン、フレディ・ロンゾのトロンボーンとヴォーカルが炸裂する。そのパワフルな演奏は、伝統とモダンは別々の世界に存在するのではなく、実は繋がっていることを改めて実感させてくれるのだ。南部・ニューオーリンズのフィールグッドの楽しさとともに、果てしなく熱いパッションがそこにはある。

そんな彼らの熱さが、客席に伝わらないはずはない。舞台と同じように幅広い年齢層で埋められた客席の中には、パラソルを広げて踊り出す観客までいた。あれがニューオーリンズ流の楽しみ方なのか、私にはわからないけれど、そんなことはどうでもいい。ニューオーリンズの伝統、恐るべし。まさしく『ザッツ・イット!(これだ!)』な一夜であった。