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掲載: 2009年01月26日 21:18

更新: 2009年01月26日 21:18

文/  intoxicate

【完全版】世武裕子×岸田繁・佐藤征史(くるり)対談
聴き手:小沼純一(音楽・文芸批評家/早稲田大学教授)



現在配布中のintoxicate vol.77に掲載されている世武裕子×岸田繁・佐藤征史(くるり)対談の完全版です。誌面ではスペースの都合上、泣く泣く削った箇所が非常に多かったため、、このブログに完全版を三回に分けて掲載いたします。



Sebuquruli




(写真左から、くるり岸田さん、佐藤さん、世武裕子さん)



Photo



せぶひろこ。滋賀県生まれ、京都育ち。パリ・エコールノルマル音楽院映画音楽作曲科を首席卒業。2008年、デビューアルバムとなる「おうちはどこ?」をNOISE McCARTNEY RECORDSよりタワーレコード限定でリリース。












小沼(以下、小):世武さんの『おうちはどこ?』がつくられたきっかけについて教えてください。



世武(以下、世):『ワルツを踊れ』がすごく好きで、くるりがやっているレーベルNOISE McCARTNEY RECORDSをネットでみつけたんです。ウェブサイトを覗いてみたかぎりはロックっぽい感じだったのと、外国人の方が多かったので、たぶん無理だろうとは思ったんです。とはいえ、ダメもとで送ってみようと。ただあまりにもダメもとで思っていたので、デモテープではなく、メールにマイスペースのアドレスだけを載せて送って。で、のちのち「それは失礼や」と指摘され(笑)。



佐藤(以下、佐):デモテープ募集という形をとっているので、音源をプロフィールとともに送ってもらうのが普通ですけど、最近はウェブサイトをもっておられる方とか、マイスペースをもっておられる方が、そのアドレスをパッと貼りつけて送ってくることが多いみたいで。



小:「聴けよ」って感じ(笑)?



佐:デモテープやメールをスタッフがチェックしてくれて、面白そうなんがあったら送ってくれる。世武さんの場合は、メールが来たその日に「スゴイのがきました!」と転送されてきまして。



小:世武さんのどんなところがスゴイと?



佐:彼女みたいなことをやろうと思っている人はいっぱいいるだろうけど、ここまで形になってできてる人っていないだろうなと。このアルバムって、言葉がないことが最大限武器になってるという印象がありまして。そういう表現を音楽家の皆さんってやりたいと思うんでしょうけど、それをできる人ってすごく少ないと思うんです。
岸田(以下、岸):一瞬で「うわっ」となって、「これはなんや?」と思ったのをよく覚えています。無条件で好き、と。いろんな意味で素晴らしさはあると思う。たとえば曲の良さとか、やってることが意外と同時代性をもっていることとか。でも一番好きになったのは……こういう音楽をつくりたい人はたくさんいると思いますが、側の部分で入って失敗している人が多いと思うんです。でも彼女の場合はまったくそうじゃなくて、音楽のセンスとかテクニックもあったりするけど、同時にパーソナルなところで勝負している。



小:「彼女みたいなこと」「こういう音楽」とおふたりはおっしゃったんですが、たとえば?



佐:なんかね、ストーリーがみえるんです。音楽ってどんなものでも映像喚起力はあるし、たとえばそれが一枚の絵だったりすると思うんですけど、世武さんの音楽ってそれが動いている感じがします。



小:《少女》とある曲が続きますよね。タイトルもストーリー性があるようにもとれますけど、最初から意図されている?



世:はじめからコンセプトがあって「少女」についてと思っているわけではないんですが、書いていくとその音楽のモティーフでテーマが決まってくる。音楽のインスピレーションが言葉ではなくて、音楽のひとつの素材がテーマのインスピレーションになって、そのテーマがその続きのインスピレーションになるんです。そんな感じでいつもつくっています。



小:音そのものとイマジネーションとを行ったり来たりしながらつくっている?



世:映画の脚本書くのに近いと思うんです。はじめの少しの音楽のイマジネーションでテーマが決まったら、自分のなかでばーっとストーリーが出てくるので、その頭のストーリーにあわせて音楽も同時進行で鳴る。なので、映画を観てるときのような感じで曲を書いてる――と思います。



小:たとえばこういう音楽をこのレーベルから出すっていうときに、一般の方は、くるりだからロックっぽいものなのかなと思うことが多いかもしれません。でも、前作のLana&Flipもそうだし、世武さんのもそうだけど、ロックと呼ばれるジャンルにはとらわれないものになっている。世のなかの傾向として、人びとが聴くものが、以前に較べるとひとつのジャンルに閉じちゃうことが多くなったと思っているんです。そういうなかで、こういうふうにジャンルを広げていく方向がみえる。



岸:ふたりでよく話しているのは、いいと思ったものを出して、赤字を出さなければいいんではないか、ってことで。それだけなんですね(笑)。いわゆる商売っ気を出してやってるレーベルではない。僕らも本業はバンド活動で、自分たちがレコードをつくることなんで。自分たちの活動自体もやっぱりロックバンドやってますから――ロックっていう表現自体が曖昧やとは思うんですけど――ロックバンドがなにかをやるってことにはすごく執着はしてます。でも、普段聴く音楽とか自分たちのやりたい音楽の方向性というのは、あまり普段気にしてはいない。ただ、こういうものが出てきたから、わたしはこういうものが好きやから、ここにドーッと行ってしまうっていうのもまたちょっと違うかな、と。世武さんが持ってたもの、それはロックとかそういう言葉じゃないでしょうけど、音楽に対する考え方とか、音楽の細かいことに対する趣味嗜好性なのかもしれんけど、なにかがすごく一致するんです。



佐:ラジオ番組とかで出演させてもらっていたら、自分たちの今好きな曲をジャンル問わずにかけて、リスナーや不特定多数の人に聴いてもらったりすることができるわけじゃないですか。そういうことを踏まえて、いまの音楽、2008年の状態で音楽をつくっていたりするわけで、お客さんと共有できるということはお互いにとっていいことやと思うんです。日本のバンドしか聴かへんお客さんも多いと思うんですけど、なんかのきっかけで洋楽聴きだしたら聴かはると思うし。きっかけがないだけで。京都音楽博覧会でも、普通の人はほとんど知らない人ばっかり集めてやらしてもらってますが、音楽が好きやって人が集まって楽しんでもらえればいい。そういうスタンスと同じですね。NOISE McCARTNEYっていうのも、「うちらこの人がすきやねん」っていうだけですね(笑)。



岸:情報がいま多い。音にたどりつけるまでの時間も短くなっている。それが良い悪いは別にして、昔やったらレコード屋に買いにいって、というのとは違う音楽との付き合い方になってきてると思うんです。ただそうなると、やっぱりそんなに人間欲しいものが多いわけではない。自分が一見興味のないものに対して蓋をしてしまう傾向があると思うんです。それも自然なことやけど、やっぱり思い込みって多い。でも、たとえば利き酒とかして、「俺はこの酒が嫌いや」とか言ってても、たぶんこうやって、目を塞いでたら、なんもわからんわけじゃないですか(笑)。そういうもんやと思う。みんなで音楽を聴いたりすることが僕は好きで、「これ、めっちゃカッコイイやん。誰?」って言ったら、ただキャロル・キングやったりとかして(笑)。よくあるんですよ。そういう感じで、いろんな音楽に触れる機会が多いというのはいいなと思っていて。
彼女のアルバムは、ジャケットに顔面がでーん!と、どアップだったりとか。僕はそういうのもすごくいいと思う。ともすれば、「らしい」ジャケットだって作れたと思うんです。でももしかしたら、これは女性シンガーがつぶやくように歌っているのかなと思って、手にとって聴く人もいるのかもしれない。



小:ちょっとした誤解、じゃないけど、ズレみたいなものが介在している方が面白いんじゃないか。



岸:そう。そういう人生の方が面白い(笑)。



(つづく)



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この続きは2/2(月)アップ予定です。お楽しみに。