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クラシック・レコード愛好家のために3200頁!前代未聞の大著作『グレイリスト』

グレイリスト

100年後のレコード愛好家のために3200頁!前代未聞の大著作「グレイリスト」
販売目録のいきを超えて独自の論評で綴られるクラシック初期盤1万5000枚の詳細情報網羅
アナログの深淵、真髄に触れたい方への羅針盤(小野寺弘滋・ステレオサウンド前編集長)

オーディオマニア・レコードマニア垂涎の名店「グレイ」の店主阿部昌和氏が、90年代からヨーロッパ中を漂泊して仕入れた、貴重なヴィンテージレコード1万5000枚を通信販売用にカタログ化した「グレイ・リスト」(1993年1月~2012年11月)の完全書籍版。すべてのレコードには、阿部氏自身が幾度も聴いた上で、小島政二郎かくやの魅力的な紹介文を掲載。それぞれのレコードには、その無二の文章と録音データ、スタンパー、マトリクス、イコライザーカーブ等の詳細データが添えられており、資料的価値も高く、ドキュメントとしての読み応えも存分の内容。
(キングインターナショナル)


アナログの深淵、真髄に触れたい方への羅針盤
小野寺弘滋
これは前人未到の所業である。上下巻合わせて3000ページをゆうに超える本書には、推定1万5千枚ものレコードが息づいている。
「グレイリスト」とは元々、阿部昌和さんがヨーロッパ中を漂泊して仕入れた、貴重なヴィンテージレコードのテキストのみによる通信販売用カタログだった。ガイドブックにはおよそ載ることのない、日本では誰も知らない秘められた名盤も数多く紹介された。ほぼすべてのレコードには、すなわち数万回レコードを聴いた上で、おざなりの紹介文とはまるで異なる唯一無二の文章と録音データ等が添えられており、資料的価値も高く、ドキュメントとしての読み応えも存分だ。
レコードに刻まれた音楽の魅力を読み手に伝えんとする情熱が込められた数々の小文は、演奏、録音だけでなく、再生に関しても積極的に言及。レコードは、よき再生に恵まれなければ命を持たないのだが、「グレイリスト」にレコードが息づいていると言ったのは、つまりはそういうことである。同じ演奏が二度とできないように、同じ音を二度と聴くことができないように、レコード再生とは一期一会である。「グレイリスト」はだから一期一会の随想集とも言える。アナログレコードの本当の深淵に分け入り、その真髄に触れたい人にとって、これ以上ない羅針盤となろう。

「芸術」もいいけれど、「芸」はもっといい
阿部昌和
「芸術」もいいけれど「芸」はもっといい。芸術音楽は耳を緊張させますが、芸を磨いた音楽にこころは緩みます。軽妙洒脱、おかしみに戯れ、哀しみに耽る。英EMIの老エンジニアがボソッと言いました。
「50年代のレコードはart、60年代はscience、70年代はproducts、それ以降はなんのことはない、ただのDataなんだよ」。
このリストで紹介するレコードのほとんどはコレクタの家を訪ねて、食事をしたり泊めてもらったりしながら入手したもの。万人受けする名盤というより誰も知らない盤が多いのも、彼の地のユニークなコレクタたちのおかげです。グレイリストのお客様、すなわち数百人のパトロンに背中を押されてヨーロッパに行き、面白い盤を探し出して持ち帰ってくる。かけがえのない経験でした。そして、あの頃は状態の良い盤を入手できた最後の時代でもありました。リストの価格はそのまま表示してあります。当時の実勢価格です。また同じ番号でも、録音年とか録音会場が異なって記されていたりします。今でこそ録音データはずいぶんと公表されるようになりましたが、リスト作成当時は資料を見つけるのは大変でしたし、資料自体に間違いもありました。
リストを書くにあたって心がけていたこと。作曲の歴史、演奏家の経歴等の羅列に堕ちることなく、レコードから受けた情緒や快楽をダイレクトに伝えること。美しい、素晴らしい、感動的など投げやりな形容詞をなるだけ避ける、他の演奏家との比較はしない、アルアルやトリビア的な深掘趣味は避ける等々。
重い本です。ウェブサイトやダウンロードも検討しましたが、そうしたフォーマットが永く保存できるという保証もありません。本は電子媒体に比べればそれは不便です。だけどページを繰るうち、知らない盤や忘れられた盤に魅入られることもあるでしょう。これは資料ではなくて日記です。
100年後に寝転んで読んでくれるひとがいてくれたら、望外のよろこびです。

グレイリスト

Grey Listは1993年1月から2012年11月までグレイレコード通販リスト全74冊分を番号順に編集して所収してあります。また通常の再生では違和感がある盤にイコライザーカーヴを表示しました。初期盤再生で避けて通れないのがカーヴの選択です。
忘れられたレコードを聴いていると、未知の演奏のジャングルに分け入る気分になります。蛇あり、トカゲあり、ワニあり、極彩色の小鳥も見えてきます。クラシック音楽は決して「きれいごと」などではありません。欲と静けさと激しさが絡みあって楽譜に映し込まれたものです。ですからクラシック音楽はエロスをずいぶんと隠し持っています。古いレコードを聴くと、体が生き生きとしてくるのもそのせいかもしれません。好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、と書きました。これは正直な日記です。

〈著者プロフィール〉
阿部昌和(あべ・まさかず)
1952年千葉県銚子市生まれ。40歳からヨーロッパ各地のレコードコレクタとの交流により、貴重盤を日本に持ち帰りgrey listで通信販売を開始。スイスTHORENS社製レコードプレイヤを修復する技術を習得しグレイオーディオでレコードとオーディオのバランスの良い再生に携わる。英GRAMOPHONE/ICRC誌に連載執筆(1995-6)、Coupd’Archetレーベル設立に協力。趣味は漂うこと。

グレイ・リスト

〈判型、仕様〉B5判ハードカバー
〈刷部数〉限定300セット
〈定価〉66,000円(税込)
〈発売日〉2022年5月予定

小口三方染め上下巻セット
上下巻合わせて3200頁以上分売不可

〈付物〉
仏盤/英盤 番号順リストと対比表(故正井氏による資料)
・FALP-ALP/FBLP-BLP/FCX-33CX/FC-33C/SAXF-FCX-SAX-33CX/ASDF-FALP-ASD-ALP 番号順+対比表リスト
・FHX/FJLP/Les Discophiles FrancaisDF/Pathé DTX DT PCX/ODEON ODX OD 番号順リスト
レコード各社の歴史とレーベルの変遷
リストあとがき集
略語説明

〈まえがき〉
小野寺弘滋
〈写真(グレイリスト表紙)〉
齋藤圭吾
〈装画〉
ワタナベケンイチ
〈編集協力〉
岡戸絹枝、上野勇治、井上有紀、高野夏奈
〈デザイン〉
有山達也
〈本文レイアウト〉
岩渕恵子、山本祐衣、中本ちはる

《Grey List》内容見本(本文より一部を抜粋)

グレイリスト

●ブルッフ ヴァイオリン協奏曲1番/ グラズノフ ヴァイオリン協奏曲 E.モリーニ(Vn) F.フリッチャイ ベルリン放送響 録音1958年 イエスキリスト教会 T / Lステレオレーベル フラット重量盤
ジャケットに魅入られて、今回のリストはこのレコードから、聴き始めることに。というのも英PYE社製PF91の調整が予想以上の出来に仕上がってきたから。この2台のクリーム色のモノーラルアンプはあまりに音楽的な再生をする。大好きなモリーニを心ゆくまで再生してみなさい、声が聴こえたのです。このところ、ビリビリと振動する空気だけでは、恍惚の音色を出現させるのは難しいのではないか、と感じ始めていたのです。右チャンネルはいつものVITAVOXのクリップシュですが、今回の左チャンネルはフランス国立放送局仕様のモニタースピーカー、20センチ口径の仏SUPRAVOX社製(シャルランのシステムにも採用されているもの)ユニットを石膏製の球形エンクロージャーに収めたユニークなシステムにフランスのオーディオ狂がちょっとした工夫を施した優れもの。これが、巨大なヴァイタヴォックスと何故か仲良くなってしまって、練り込まれた密度でそよ風の音を寄せてくる。DGGが念入りにプレスしたステレオ盤から、モリーニのヴァイオリンの肌理濃やかなソロが立体というか、光に影を添えて吹いてくる。目を薄く閉じて優雅に弓を弾く様子が容易に見えてくる。コントロールアンプのロードを久しぶりに使用するEMI製EPU-1000カートリッジに適合(68kOhm)させてやると、帯域のバランスが整い、過剰な音場の震えが鳴りを潜め、音楽家の巧みな芸が見えてくる。それを英Connoisseur社製CraftsmanⅢプレイヤが奏でている。恍惚の肌触りを見せる音色、さらりと流れ出る情感、そして殻のない果汁したたる音に呼吸する生命力。滲みや濁りから開放された清水のしずくにある、あのクリスタルの艶。すべての瞬間が過ぎるには惜しいくらい。スピーカーの存在を感じさせない、静かで押しつけのない音場の液化現象は鼓膜を潤すに充分な魅力をたたえており。その只中に身を沈めると、うっすら寒い日に、陽の暖かさを想い、春を待つ、と書かれた詩がグラズノスのコンチェルトと重なるのです。

●フォーレ ピアノ音楽全集第5巻 ヴァルス・カプリス1-4番 ピアノのための小品作品84(8曲) ジェルメーヌ・ティサンス・ヴァランタン(Pf) 録音1959年 サル・アディヤール 外周茶に黄の音叉レーベル(デュクレテ・トムスン) 厚手プレス P:S.モリュ E: A.シャルラン
昨日までの雨が噓のように晴れ上がった10月のパリの遅い朝、巨大な円形をしたラジオ・フランス(RTF)で、Coup d’Archetのグレン・アームストロングと会う。カプチーノ2杯とクロワッサンを放り込み、4階の迷路を抜けてINAにやってきた。受付のファビアンヌは冗談を挨拶に、中庭に面したモニタールームへと僕らを通した。STUDER製A807とCABASSEのスピーカーの脇に置かれたテーブルの上、用意されていた銀色の缶が堆く積まれている。宝の山だ。シールをはずし、缶を開ける。古いAgfa社製テープは手付かずで眠ってる。2人で顔を見合わせ、1961年9月22日、Bourdan51スタジオで録音されたフォレのテープを回す。まず、『優しき歌』。女性アナウンサーが「ピエール・モレ バリトン、ジェルメーヌ・ティサンス・ヴァランタン ピアノ」と告げる。40年ぶりに再生されるテープは、それはうれしそうに音楽を部屋に満たす。音がなまなましい! そして、Pierre Molletという歌手がただものではないことに、2人でうなずく。次にティサンスとレーヴェングートたちによるピアノ四重奏曲2番作品115。放送スタジオ録音独特の“静寂と熱気”の魔法がモニターされて、内心インディアナ・ジョーンズさながらの興奮状態。ゴーティエとルフェビュールのモーツァルト ソナタK.379とベートーヴェン ソナタ作品111(録音1959年5月31日)、トリオ・ドゥ・フランス(ゴーティエ/ レヴィ/ ジョワ)によるフォーレ/ ラヴェルのトリオ(録音1960 / 58年)etc……。10時から5時まで、英国人と日本人はフランス音楽のGoûtを耳の中でころがし、賞味する。満腹感はなく、聴感覚がどんどん磨ぎ澄まされていくのを覚える。グレンはハマり、パリ滞在中INAに通い続け、ファビアンヌと冗談を言う日々を送ることになった。(オークレールのストラヴィンスキー/ ルーセル、そしてバルトークの協奏曲がブリリアントだったと聞く)

●バッハ 管弦楽組曲全曲 K.リステンパルト ザール室内管 R.ブルダン(Fl) 録音1959年 ザールルイ 濃いピンクに白のル・クラブ・フランセ・デュ・ディスクレーベル(オリジナル) フラット重量盤
食事のあとに幾種類かのチーズの載せられた板が出てくると、日本人の僕にとってそれは踏み絵のようなもので、どのチーズをどれだけ取るか、フランス人の視線を感じます。大概、見た目が小綺麗なのは大量生産されたもので、彼らに言わせればChemical(化学合成)であり、Eatable(食べても死なない)な存在なのです。聖なるチーズは大概優しいグロテスクな顔して微笑んでいる。彼らがチーズを選ぶのって結構真剣です。青空市ではチーズ屋台の主人とこれはどう、あれはこうと十分話し込んで、信頼できると判断してから買う。主人は白い紙で貴重品のように包んで渡す。フランス人でもチーズは臭いそうだけれど、一度口に入れれば何とも言えない味わいに食事の満足に深みを増す。柔らかいねっとりとしたチーズに小さく切ったパン、そしてワインを転がしていると、口の中で拡がりながら体内に入っていく愉快さがある。大地からの享受。「実際、ワインとチーズが両方生産できるのは、フランスだけなんだよ」と、誇らしげに言う。バッハを聴きながらこんなことを思い出してしまっているのは、リステンパルトが濃厚でありながらもたれず、響きのねっとりと不思議なすっきり感のせい。彼らのバッハには常に‶身を浸しても良い”という心地よさの誘惑がある。知らずのうちに僕は耳ではなく肌で管弦楽組曲を聴いている。白い包み紙を拡げて出てきた音には、空気の恵みに満ちている。空気のゆたかさと静けさ。ほとんどの演奏がトランペットとフルートが喧しいので、この曲はそう好きではなかったけど、これは別だ。以前聴いた時はそれほどでもなかったのに。このバッハがケミカルではないと知ったとき、僕の音楽の聴き方も変わったと思う。プレスの状態も深く、味わいを噛み締めている間に全曲が終わってしまいました。

●バッハ 無伴奏チェロ組曲6番 D.シャフラン(Vc) 録音1958年 ベルリン放送局SRKホール ETERNAグリーンレーベル フラット重量盤
古い屋敷の2階に案内され、チューリヒ湖を眼下に窓を開け放しドアも少し開けて、彼女はさっと楽譜を開いて弾き始める。ベンジャミン、レーガー、その他知らないソナタを2曲、最後に「これは難しくて、誰もレコードに出来ない曲よ」と恩師マイナルディが作曲したソナタをつっかえながらも弾いた。数メートルの至近距離からチェロを聞くと体は痺れるように震える。「あなたのチェロはベルゲです。それもロシュ(岩)のベルゲ(山)です」「ありがとう。私、カザルスが好きです」「恐れながら、鑑賞者のひとりとして、僕はもうカザルスには動かされなくなってしまいました」演奏が終わったあとも彼女はチェロを離さない。突然、先生だったマイナルディやフルニエの形態模写をしておどけてみせる。「ところで、フラウ・ペドラッツィ、チェリストって楽器とメイク・ラヴするように弾いているように見えるのですが、そこんところ、どうなん?」。突然彼女は早口のイタリア語でわめき始めた。帰り道友人に訪ねると「そんな失礼なっ! 私そんな質問には絶対に答えませんわ。ええ、絶対に。日本人って礼儀正しいって聞いたけど、ほんとにこの人日本から来たのっ」と言われたそうな。友人はジョークだからと、とりなしてくれたらしい。エヴァ・ペドラッツィ、ミラノ・スカラ座でチェロを弾き、25歳でBBCにバッハの全曲を録音(瑞MIRECOURT)している。さて、シャフランのチェロ、あまりに優秀録音なのでいろんな音で再生できるのですが、今回彼女のチェロを聞いたおかげでチェロ再生の面白さがわかってきました。このバッハ、どんな音で聞いても、すごいものはすごい。

●ドヴォルザーク ヴァイオリン協奏曲 J.マルツィ(Vn) F.フリッチャイ ベルリンRIAS響 録音1953年 イエスキリスト教会 T / Lレーベル フラット重量盤 P: W.ローゼ E: H.シュタインケ / G.ヘルマンス
昨日のこと、マルツィが全ての録音に使用したといわれる、カルロ・ベルゴンツィ作の銘器「タリシオ」(チューディ・マルツィ)に出会う光栄に浴しました。東京在住のMmeジロードンが所有しており、英サセックスのグレン・アームストロングが紹介の労をとってくれたのです。Mmeジロードンは、この「タリシオ」をマルツィが所有していたとは全く知らなかったにもかかわらず、一緒に並べられていたストラッドには目もくれず、瞬間的に「このベルゴンツィ!!」とインスパイアされ、数年前、大変な苦労をされてコレクションに加えられたのです。1733年製とは信じられぬ程、赤味がかったニスの厚いノリと澄んだ艶のよさ、補修された跡のほとんど無い完璧なまでの美しい保存状態。ブラームス協奏曲のジャケット写真でも確認できる、側板のくっきりとした縞(虎)模様。胴のくびれの大きい麗しい姿!! 伝説的なヴァイオリン蒐集家タリシオがソファでこれを抱いて死に、ヴィヨームが馬車を飛ばして遺族から奪うようにして買い取り、ヴェルレを経由し、リービヒ男爵が所有し、1936年チューリヒのフーク商会でマルツィの最初の夫、ダニエル・チューディが買い求め、花嫁にプレゼントするまで、「タリシオ」は、ヴァイオリニストに所有されたことはなく、初々しい姿で彼女と出会い、数々の名録音を残すことになるのです。マルツィはこの贈り物を殊のほか喜び、抱いて寝たほどだったそうです。「タリシオ」は、手に持ってみると予期していたよりずっと軽いのに、その高貴な肌触りは逆にたくましい筋肉のひきしぼりを感じます。工房職人の山本さんによれば、「このヴァイオリンの特徴は音の強さ。どんどん強く弾かれても音が潰れません。ポジションがきちっとしており、すごく大切に扱われていたようですね。当時の年代の楽器で、表板に割れがまったく無いというのは本当に珍しいですよ」。爪弾かれたアルペジオはアルマニャックのコクが香りを残すよう。これを弾いて、あまりの音の艶やかさに、泣き出したヴァイオリニストもいたそうな。もし余裕がおありなら、復刻盤を置いて、ぜひオリジナルを聴いてみてはいかがでしょう。値段は高いけれど、確かにマルツィの音楽に近づける、と彼女が愛したヴァイオリンに触れた質感が、まだ少し掌に残っている今、思いました。

●ラヴェル ピアノ独奏曲全集 S.フランソワ(Pf) 録音1966 / 7年 サル・ヴァグラム パリ/ サル・ド・アルカザール モンテカルロ 赤に白文字仏VSMニッパー茶STĒRĒOレーベル(オリジナル) P: E.マクレオー E: P.ヴァヴァスュール 英ASD未発売
パリでフランソワの2番目の奥さんと話す機会がありました。お城に住む家系の雅やかなマダムで、大戦中彼女の両親はユラ・ギュラーやクララ・ハスキルをかくまった事もあったそう。話しぶりはゆっくりとしていて、華があります。「最初の奥さんと別れたばかりの彼は、芸術家たちを理解した家柄で財産がそこそこ(彼女はそう表現した)あった私と再婚したのよ。結婚したその晩から、彼は帰ってこなかった。サン・ジェルマン・デ・プレのジャズクラブに入り浸っていた。毎晩毎晩、浴びるように呑み、ピアノを弾き、マドモワゼルやマダムと遊ぶ。確かトキオに行った時も、着いたその晩からジャズピアノを弾きに出て行ったんだわ。だから、彼のラヴェルは本物よ……」。この札付きの男の最初の奥さんは、あのミシェル・オークレール。フランソワと彼女は、ロン・ティボーコンクールで同じ年にピアノ部門とヴァイオリン部門で優勝し、その時オークレールはこの悪玉ピアノ弾きに一目惚れしたのだとか。そして結婚、あっという間の離婚。フランソワそのものの視点でラヴェルのスコアは克明に具現されている。自分勝手なリズムと濡れる低音の悪意……。旨味たっぷりな音でカッティングされており、フランスのエンジニアが意図するピアノのダイナミクス再生、透明なしずくの音の連なりなどは、このCVHSオリジナル盤でないと。聴いてみてください。

カテゴリ : ニューリリース | タグ : クラシックLP

掲載: 2022年04月11日 18:00