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インタビュー

YOMOYA

ジャパニーズ・フォークやUSインディー・ロックがイビツ&ポップに交錯する日本語ロックの最新型

  例えばワープにとってのマキシモ・パーク、キツネにとってのカザルスのように。ある分野で確固たる地位を築いているレーベルが、みずからの枠を超えてでも契約を結びたいと願う――そんなポテンシャルを秘めた音楽集団がここ日本にも現れた。YOMOYAは、海外の良質インディー・ロック~ポップ・ユニットが多く所属し、(どちらかというと)洋楽レーベルという印象が強い& Records初の〈本格的に日本語詞を歌うロック・バンド〉である。

 「僕、nhhmbase(レーベル・メイト)がすごい好きで、ライヴをよく観に行ってたんですよ。&の人ともその会場で知り合って、ビートルズしばりのカラオケをしたりしながら、音源渡して〈どうですか?〉って。やっと折れてくれた、って感じ(笑)?」(岡崎英太、ベース/コーラス)。

 「うるせえから出す、みたいな(笑)? でも、元から山本(達樹、ヴォーカル/ギター)と岡崎は&作品が好きだったんですよ」(長倉亮介、キーボード/コーラス)。

 ……と、何だか緊張感のない(失礼)会話を交わす4人組は、アラブ・ストラップの解散来日ツアーのオープニング・アクトやドン・マツオ(ZOOBOMBS)のバック・バンドを務めていたりもする実力派。そんな彼らが完成させたファースト・アルバム『YOURS OURS』は、ジャパニーズ・フォークやUSインディー・ロック、さらにはポスト・ロックやエレクトロニカ、ヒップホップなどのビート・ミュージック的な要素まで採り込んだ、まさにオルタナティヴなロック作品に仕上がっている。屋台骨となっているのは、和ゴコロ溢れるメロディーとメロウなヴォーカル、ざらついたギター・リフと、さり気なく肉体に訴求するリズム。端的に言うならば、サニーデイ・サービス+ペイヴメントといった趣だろうか。(いい意味で)破綻した言葉で韻を踏み、聴き手の心のなかに乾いた叙情を落とし込む歌詞や、フォークとロックの折衷というキーワード、そしてリズムへのこだわり方などには、はっぴいえんどの影がちらりと覗いていたりもする。

 「サニーデイ・サービスとペイヴメント……ああ、それが一番わかりやすいかもですね。はっぴいえんどっていうのも嬉しいですね」(長倉)。

 「YOMOYAを始めた当初、個人的にはリズムを打ち出したものがやりたかったんですよ。あと、フレーズのリフレイン。歌は、やっていくうちにちょっと褒められたから調子に乗って(笑)、重点を置くようになりました。あとトーキング・ヘッズとか、ヒップホップっぽい……そんなには聴かないんですけど、音数が少ない感じというか、ミュート感がいいな、っていうのがあるから、そういう要素も採り入れたり。メロディーはどうしても和モノっぽくなっちゃうんですけど、メロとリズムを中心に、聴きやすくて、でもちょっとイビツな感じ、っていう音楽をやってますね」(山本)。

  彼らのリズムや音響に対するこだわりは、本作をヘッドフォンで聴いてみるとより顕著に浮かび上がってくる。音があちらこちらから飛び出してくるような感覚が、本当に楽しい。

 「いろんな音を左右(のトラック)に散らすのが好きだから、ミックスの時には〈右〉と〈左〉ばっかり言ってました(笑)」(長倉)。

 「PCも使ってないから緻密な音作りまではいってないですけど、元々エレクトロニカも聴くので、そういう趣味がたぶん出てますね。ミキサーでスネアにリバーヴをかけて、ダブっぽいことをやってみたり。ホースを見つけてきて、とりあえず回してみたり(笑)。洗濯機の排水ホースの長いものなんですけど、回すとGのキーの音が出るようになってて、高速で回すと高くなる。サンプラーに声を入れて、フィルターかけたりイコライジングして圧縮したりして、ちょこちょこ使ったりもしてます。今回の音源にも地味に入ってるんですけど、たぶん声とは思えないでしょうね」(山本)。

 ライヴの際は「ペイヴメントが心の師なんです!!!」という山本の嗜好からステージに電飾を施すという素直さもありながら、どこか〈あまのじゃく〉な一面も持つ彼ら。それはあたたかなメロディーに散りばめられた〈骨砕く音〉〈まるで死骸みたい〉〈纏う鳥肌〉などの負のイメージが強い言葉の使い方にも当てはまる。

 「僕は小説をよく読むんですが、物語がイビツだったり登場人物が変だったりしていても、ちゃんと本当のことを語ってる、みたいなものを好むんですね。アメリカの現代小説……ジョン・アーヴィングとかポール・オースターとかが好きで。歌詞もたぶんそこからきていて、きれいじゃなかったり普段は馴染みがなかったりする変な言葉とかで物事を語れたらいいな、っていう心構えが――というか、あまのじゃくな性格が出てるのかな(笑)。メロウな曲だから甘い歌詞、っていう定石みたいなものは敢えて外したりとか。あと、歌いやすいっていうところで、けっこう韻を踏んでますね。“はかりごと”なら〈言葉はなし〉と〈大人話してる〉とか。言葉遊び的なことで情景を伝えようとしてる……というか、むしろ言葉遊びがほとんどです(笑)。だから曲紹介する時に、〈こういう気持ちを込めて作った曲なので聴いてください〉って言えない(笑)。でも、それが〈自分たちらしさ〉であるのかなー、って。捉えどころのないものがどんどん固まってって、全体的なイメージになってくる――何かよくわかんないものの固まりっていう、そんな感じがいいですね」(山本)。

 先述のはっぴいえんどがいい例だと思うが、〈新しい〉と評される音楽はいつだって、その本質を掴もうとする手をするりとかわしてしまう。山本が語る〈何かよくわかんないものの固まり〉とはつまり、そんな〈新しさ〉の象徴であり、彼らのサウンドに宿るポップネスそのものであるのだろう。

YOMOYA 『YOURS OURS』
1. YOURS, OURS
2. GARANDOU(♪試聴する
3. イメージダメージ(♪試聴する
4. I Know, Why Not?(♪試聴する
5. slowdancelowtide
6. Here You Are
7. はかりごと
8. ギフト

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2008年06月12日 00:00

更新: 2008年06月13日 19:41

文/土田 真弓