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インタビュー

Salyu 『MAIDEN VOYAGE』

  

 

Salyu自身が<旗>と呼ぶ“LIBERTY”をきっかけとした、更なるイデアの探求。「自分の未来がどう在りたいか、ということに対してすごく向き合った」というこの3年間における経験値を美しく結実させたのが、ニューアルバム『MAIDEN VOYAGE』だ。彼女の崇高な<音楽的決意>が聴く者の心を真っすぐに撃ち抜く、名曲集である。

 

「歌手としての覚悟、<私は歌手です>と言いきれる姿勢。その理念がすべての楽曲に表れている作品です」

 

 願いは意志へ。その意志は、揺るぎなき理想のフォルムへ。こういう作品の前においては、既存のジャンルやカテゴリーを示す表現はもはや役に立たない。『MAIDEN VOYAGE』とは<Salyuという存在をクリアーに体現した音楽作品>なのだから。

 

「今回のアルバムは、まず『Merkmal』というベスト・アルバムの<アンサー>でなくてはいけない、という思いがありました。そして私自身の歌手としての覚悟、<歌手です>と言いきれる姿勢……その理念がすべての楽曲に表れている作品にしたい、という信念を込めています。ですからそこは、もう本気で死守しましたね。気ままに曲を作って、それを最後のパズルのように当てはめてアルバムを完成させるようなことだけは、絶対にしたくなかったので」

 

 おそらく通常ではありえないだろう「あらかじめゴールを設定した地図を描いた」というスタートラインは、プロセスも完成形の一部という捉え方の表れ。そしてそれはまた、彼女の自分自身に対する約束を、誓いの深さを物語ってもいる。

 

 

 

「Salyuというアーティスト、私自身が抱いている音楽への情熱だったり、音楽を感じる感性の才能は間違いなくある、と思っています。ですから、その人に何を歌ってもらおうか、その人の中にある音楽の能力はどの種類がいちばん長けているのか、などいろいろなことを考えながら、Salyuというアーティストに歌ってほしい世界観の作品を描いたゴールに向けて1曲ずつ作り上げていきました。<14曲入りで、この位置にはこういう楽曲を>というヴィジョンを最初に固めていたので、曲を書いていただきたい方にも、それぞれの楽曲に関しての明確なイメージを具体的にお伝えする形で発注しましたし。たぶん今回の制作においては、私は<コーディネイター>という表現がいちばんしっくりくるかもしれません(笑)。でも、すごく刺激的でしたし、しかもすべてイメージどおりにできました」

 

 必然であるということそのものを目的として、そのために必要不可欠なエレメントのみで構築された本作。そのうえで、とりわけ異彩を放っているように感じられるのが<ダウナーな浮遊感>を漂わせている“L.A.F.S.”と、シャープさとルーズさが共存したロック・チューンの“BIRTHDAY”。両曲共、Salyu自身が楽曲創作に最も深く携わっているナンバーなのだが、この2曲の存在が『MAIDEN VOYAGE』というアルバムに強靭さをもたらせているといっても決して過言ではない。

 

「はい、そのとおりです。作り手の思いとしては、絶対に必要だったのです、この2曲は特に。アルバムの流れを一度切り換える、という意味でも6曲目にマイナー調のバラードが必要だ、と思って“L.A.F.S.”は私自身が詞曲共に書きましたし。音の配置をはじめいろいろなものが新しい“BIRTHDAY”は、ユニークでちょっとチャーミングな部分が光るヴォーカルもポイントなのですけれど、最初に抱いていたヴィジョンよりも更に全体像がカッコ良くなりましたし。この2曲に対してそういうふうに感じていただけるのは、とても嬉しいです」

 

 

  そして、もう1曲。声色は旋律を奏でていく、<言葉のない歌>である“VOYAGE CALL”--これは、アルバムのフィナーレを飾るにふさわしい、まさに孤高のヴォーカリスト・Salyuの真骨頂といえる超絶的ナンバーだ。

 

「歌を志していく人間としての私のルーツ、それは<響き>で。響きへの執着というのがとてつもなく強いですし、言葉で具体的にメッセージが伝わってくること以上に<響きがどうか>ということにすごく熱情しますし。ですから、ヴォーカリーズの楽曲をやることは、すごく私にとって大事でした。そしてもうひとつ、『MAIDEN VOYAGE』……<処女航海>ということの旅の心象風景を描いた楽曲の必要性を当然感じていたので、その思いが合わさって“VOYAGE CALL”という楽曲を作りました。私にとっては特別な作品ですし、次の岐路を照らす光になる、と思っています」

 

 Salyuが全身全霊を注ぎ込み、その魂を真摯に鳴り響かせている、圧倒的存在感の音楽作品。けれど彼女は、誇りをもって、未来をも見据えて、こう語った--。

 

「『MAIDENVOYAGE』は<これが私の新しい船なんです>という宣言ではないのです。もちろん<私は新しい船を創りたい>という気持ちは強く反映されていますけど。丈夫な船を……それも私ひとりだけではなく少しでも多くの人が一緒に乗れて、嵐にも呑まれないで悠々と進める、穏やかな日はもっとハッピーにしてくれるような船を、そういう心を、精神の母体みたいなものを未来に向けて築きたい。築かないと未来には挑めない。ですから、<そういう丈夫で新しい船を創りたい>と、このアルバムを作り終えた今、あらためて強く思っているところです」

 

 

■ LIVE…

Salyu Tour 2010
MAIDEN VOYAGE

4/10(土)仙台イズミティ21
4/11(日)新潟県民会館
4/14(水)神奈川県民ホール
4/16(金)愛知県芸術劇場
4/20(火)、21(水)渋谷C.C.Lemonホール
4/24(土)広島アステールプラザ大ホール
4/29(木・祝)札幌市民ホール
5/08(土)福岡市民会館
5/12(水)グランキューブ大阪
    (大阪国際会議場)
5/13(木)神戸国際会館
    (こくさい大ホール)

 

  

■ PROFILE…Salyu(サリュウ)

音楽プロデューサー小林武史によってその才能を見出され2000年にLilyChou-Chou名義にてデビュー。08年集大成としてのベストアルバムをリリースし、初の日本武道館公演も開催。約3年振りとなるアルバムをリリース後、4月より待望の全国ツアーがスタート。

  

 
記事内容:TOWER 2010/3/20号より掲載

カテゴリ : COVER ARTIST

掲載: 2010年03月20日 00:00

ソース: 2010/3/20

TEXT:竹内美保

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