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インタビュー

HIDETAKE TAKAYAMA 『Right Time + Right Music』

 

このメランコリックな心地良さを何に例えればいい? 日々の生活に溶け込み、心の移ろいに寄り添う、色彩感覚に溢れたメロディーとビートの世界をいま、あなたに

 

 

青い海と、雲ひとつない青空が広がり、時間さえもゆっくりと流れているかのような関東圏の楽園、湘南まで目と鼻の先の、神奈川は藤沢に生まれ育ち、幼い頃よりクラシック・ピアノを演奏してきた作曲家・HIDETAKE TAKAYAMA。日本大学芸術学部で映画音楽を専攻した後、映画やCMの音楽制作と並行して、自身のソロ名義での制作をスタートさせた彼の名が広く世に知れ渡るきっかけとなったのが、2008年初頭にNeo-Futureよりリリースされた7インチ“PUKE”だ。

「この曲を作ったのは、もう4年も5年も前。自分の思い描いていた音を初めて形にできた、〈HIDETAKE TAKAYAMA〉というアーティストが始まった曲です」。

ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなど、クラシック楽器を大胆に導入した壮大なサウンドは瞬く間に話題を集め、7インチは瞬時にソールドアウト。その後は、坂本龍一が代表を務める〈more trees〉のイヴェント出演こそあったものの、ジャジー・ヒップホップをメインストリームに押し上げたコンピ〈IN YA MELLOW TONE〉シリーズへの参加や、DJ WhitesmithやLUSRICAといった顔ぶれが並ぶ〈Melancholic Jazz〉シリーズへの楽曲提供が主だったことから、その名はヒップホップ~クラブ・ミュージック畑のアーティストとして認知されることが多かったかもしれない。だが、2年という長い期間をかけて作り上げられた待望のファースト・アルバム『Right Time + Right Music』を機に、彼の名がより広い層に届くのは確実だろう。

「クラシックから始まった僕の音楽性は、自分でもビックリするくらいバラバラなんです(笑)。普段はジャズや民族音楽、J-Popまで何でも聴きますし。ただ、音を聴くというよりも、映像的な匂いのある曲に惹かれるんですよね。耳に入ってきた音から画が浮かぶ音楽に」。

彼自身もフェイヴァリットに挙げるシネマティック・オーケストラや、『OK Computer』以降のレディオヘッドにも通じる壮大で映像的なサウンドスケープは、先のデビュー曲“PUKE”や、黒くジャジーな響きを備えた“ID-01-37-22-8923A”“RAIN WON'T LAST LONG, SO...”、まるでオペラのように壮麗な音空間が作り出された“INSCAPE”といったインスト曲でも十二分に花開いているが、豪華なゲスト・シンガー/ラッパーを迎えた曲ではその表現力がさらなる広がりを見せている。

エリカ・バドゥを継ぐ才能と評されるアトランタのステイシー・エップスと、日本のヒップホップ・ファンからも人気の高いインヴァースのトビーを迎えた“FOREVER YOURS”や、ラサーン・アーマッド(クラウン・シティ・ロッカーズ)とUKのシェア・ソウルがセッションを繰り広げる“MOTION”といった楽曲をはじめ、USソウル・シーン期待の星モー&グラッツを迎えた“READY SET GO”ではソウル・ミュージックの未来型を提示。〈フランス版ポーティスヘッド〉との呼び声も高いキディカーからヴァレンティナの妖艶な歌声をフィーチャーした“BLUE”や、レディオヘッド系のサウンドで日本でも高い評価を得ているポートランドのクライマーからマイケル・ネルソンを迎えた“THE TREE”では、絶対零度の世界観を見事なまでに表現することに成功している。そのように言葉では言い表すことができないほど多彩なサウンドが詰まった本作のコンセプトについて、彼はこのように語る。

「メッセージ性や感情表現よりも、目の前の景色や頭のなかの情景をスケッチすることに重きを置いた作品です。同じ曲を聴いていても、場所によってガラッと聴こえ方が違ったり、逆に曲の影響でその場所の印象が変わるように、聴いてくれる人が、僕の音楽から何かしらの情景を思い描いたり、新しいアイデアを得たり。〈その人の環境をいつもより少し豊かにできたら〉という思いが詰まっています」。

『Right Time + Right Music』──この瞬間、ここで鳴るべき音。HIDETAKE TAKAYAMAの作り出す音楽は、国境も言葉も越えて響き渡るに違いない。僕らの日常のサウンドトラックとして。

 

▼『Right Time+Right Music』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

左から、ステイシー・エップスの2008年作『The Awakening』(Japanubia)、インヴァースの2008年作『So Far』(GOON TRAX)、ラサーン・アーマッドの2008年作『The Push』(Pヴァイン)、キディカーの2007年作『Forget About』(XTAL)、ハースの2010年作『The Love Movement』(Libyus)、キッセイ・アスプランドの2008年作『Plethora』(R2)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年07月16日 13:36

更新: 2010年07月16日 13:36

ソース: bounce 322号 (2010年6月25日発行)

インタヴュー・文/高田純一