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インタビュー

渡辺香津美

「ギターがど真ん中にある音楽を作りたいと思っていたんです」
──ギター生活40周年。東京 JAZZではあの伝説のTO CHI KAが復活

今年でギター生活40周年。日本のジャズ・シーン、ギター界のトップを走ってきた渡辺香津美。代表曲《ユニコーン》が流れるTV-CMに自ら出演し、同曲が収録された傑作アルバム『TO CHI KA』の発表からは30年を迎える今年、当時所属していたレーベル、ベター・デイズ時代の音源を中心にボックス化した『渡辺香津美アーリー・イヤーズ・ボックス』がリリースされる。クロスオーバー、フュージョン・シーンを駆け抜けた天才ギタリストの軌跡を振り返る究極のボックス・セットだ。

「僕が17歳でデビューしてまもなくクロスオーバーの時代に重なってね。ラリー・カールトン、リー・リトナー、パット・メセニーなんて新しいタイプのギタリストが出てきて、自分もその波に乗っていこうかなと。坂本龍一さんと出会ってKYLYNみたいなバンドをやったり、ジャズばかりやっていなくてもいいんじゃないか、みたいな感じでYMOにサポートで参加したり、いろいろなグループ活動もしていたんです。でも、ギタリストはどこか一匹狼的なヒーローというイメージもいだいていて、自分の思うギタースタイルでどこから見てもギターがど真ん中にある音楽を作りたいと思ってもいたんですね。それが『TO CHI KA』というアルバムの構想につながっていったんです」

マイク・マイニエリやマーカス・ミラーらNYのミュージシャンを集めてレコーディングされたこのアルバムは当時大ヒットを記録。その時のツアーもまわったメンバーで今年の『東京  JAZZ  2010』でTO CHI KAプロジェクトを実現する。

「当時、マーカス・ミラーの紹介でドラムスにまだ無名のオマー・ハキムが加わってツアーをしたんですよ。今回もこのふたりとはぜひやりたかったし、去年東京 JAZZに出たマイニエリとウォーレン・バーンハートには、いつかまたやりたいねなんて話していたんです。アルバムを出してから30年は経っているのにみんなまだ第一線で活躍しているなんてすごいことですよね」

フュージョン全盛期はその音楽自体も一種のファッションとしてみる見方も多かったという。

「雑誌の『平凡』か『明星』で、僕と高中正義と和田アキラが正月の特集号で〈ギター三羽烏〉なんていって着物着て写っている写真があったりしましたね(笑)。でもこの頃スタジオの仕事も、それまでのように用意された譜面を見て演奏して、という形から、ミュージシャンが逆にアイデアを出して、それやってみようか、なんていう作り方になっていってクリエイティヴィティのある時代へと変わりつつあった。アメリカでもSTUFFなんかが出てきて、ミュージシャン主導で音楽をつくっていくというスタイル。そんな風にしてスタジオ以外でもライヴハウスなんかで新しい人と出会っては何かやろうよ、みたいなね。クロスオーバー、フュージョンはそんな風にブームになっていきましたよね」

そんな時代の記憶がつまっているこの『アーリー・イヤーズ・ボックス』だが、渡辺香津美のキャリアの中でもアコースティック・ギターやロックの奏法の導入など、劇的に変化する姿を捉えているのも確か。

「NYにレコーディングに行った時にスティーヴ・カーンがアコギに入れ込んでいたり、『TO CHI KA』のレコーディングの時にマイニエリからアコギについてのアドヴァイスをもらっていたこともあったんだけど、そんな時に、オベーションなんてエレアコ仕様の楽器が登場してきたんですね。これがあれば中野サンプラザでも、ひとりで爆音の演奏が可能なぐらい音量も出て(笑)。アル・ディメオラらのスーパー・ギター・トリオというのもあったけど、僕の方では勉強トリオ(渡辺、石田長生、山岸潤史)というのがあってね。『あの人たちは勉強はもう済んでいるけれど我々はこれからが勉強だ』なんて言ってやっていたんですよね(笑)。ロック的なものはイギリスの音楽にひかれてギターの音がイイ感じで歪んでいるのが良いな、と思ってね。元々バニラ・ファッジのようなプログレっぽいものが好きで、ブラス・ロックとかもね。弾くフレーズはギターでよく使われるペンタトニックのスケールというより、ジョー・ヘンダーソンのサックス、ハンコックのピアノなんかを意識してクロマチックなスケールを用いたりしていましたね」

ジャズ・フュージョンの世界にいながら、ギター生活40周年ともなると、突き詰めてゆくうちにたどり着いたのがクラシックの世界。7月にはサントリー・ホールで《アランフェス協奏曲》を全曲演奏した。

「今回《アランフェス》をやって学んだことは多かったですね。ロドリーゴという人のギタリストへの愛情や人への喜びのメッセージみたいなものをね。またいつか再演したいと思っています。あとクラシック・ギターは曲のレパートリーが少ないということもあって、今、荘村清志さんと福田進一さんのデュオ用の曲を書いています。変な曲ですけどね(笑)。他にデュオやっている人たちも取り上げてくれたらいいな、とも思ってね」



『渡辺香津美 TOCHIKA2010 featuring TOCHIKA ALL STARS
(ウォーレン・バーンハート、オマー・ハキム、マイク・マイニエリ、マーカス・ミラー)』

9/5(日) 18:00   会場:東京国際フォーラム  ホールA
http://www.tokyo-jazz.com/

掲載: 2010年08月20日 22:53

更新: 2010年08月20日 23:06

ソース: intoxicate vol.87 (2010年8月20日発行)

interview & text : 馬場雅之(タワーレコード本社)