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インタビュー

UNDERWORLD 『Barking』

 

長いキャリアを誇るからこその栄華と逡巡、そしてポジティヴに開かれた現在……原点回帰か、新章の前ぶれか、アンダーワールドはまたしても復権し、君臨する

 

 

79年にスクリーン・ジェムズとしてデビュー以降、フルー(83~86年)、第1期アンダーワールド(87~90年)、そして現在の第2期アンダーワールド(91年~)として活動してきたカール・ハイドとリック・スミスの二人。映画「トレインスポッティング」のサントラに収録されて大ヒットとなった“Born Slippy”から早15年。その音楽的キャリアは30年以上に及ぶ。今回インタヴューに答えてくれたヴォーカルのカールは御年53歳。実際のところデュラン・デュランやゲイリー・ニューマンよりも年上だ。にもかかわらず、いまなおフレッシュなイメージをわれわれに与えてくれる。

「僕らは80年代に売れなくて苦労したからね(笑)。いわばその時代を封印してきたような感はあるんだ。でも今回はもう一度自分たちが辿ってきた過去の音楽を振り返ってみた。それこそノイ!やラ・デュッセルドルフ、あるいはソフト・セルやヒューマン・リーグ、ウルトラヴォックスなんかもね」。

そして完成したのが約3年ぶりとなる今回のニュー・アルバム『Barking』。それは言わば〈第3期アンダーワールド〉をも感じさせる大きな変化に満ち溢れたものとなった。

「これまで僕らはどちらかというと内向的な自分たちの世界を音楽で表現してきたんだけど、今回はもっと外に向かってポジティヴに音を提示しようと思ったんだ。そこで思いついたのが、他のアーティストとのコラボレーションだった」。

アンダーワールドがこれほど大胆に外部のアーティストを作品に導入することはこれまで皆無だった。いわばその独自の世界観こそが彼らの持ち味だったのだが、今回はそれをみずから打ち破ることに挑戦したのだ。

「本作に参加しているマーク・ナイト& D・ラミレズとは昨年すでにシングルをリリースしているんだけど、それが凄く上手くいってね。もっとこういった作業を発展させていったらどうかと思ったのさ」。

『Barking』に参加しているゲスト・アーティストは、まさにいまのクラブ・シーンを多岐に渡ってリードする面々。ホスピタルを拠点に活躍するドラムンベースの気鋭ハイ・コントラスト、ダブステップの先駆者アップルブリム&アル・トゥーレッツ、元ディープ・ディッシュの実力派ダブファイア、ジャーマン・テクノの重鎮ポール・ヴァン・ダイク、いまや第3のメンバーといえる存在のダレン・プライス、そして昨年シングル“Downpipe”でも共作したマーク・ナイト&D・ラミレズといった布陣となっている。そして、その音楽的な変化はカールのヴォーカルにも表れた。

「今回はヴォーカルに凄く力を注いだよ。何度も何度もいろいろなスタイルで歌ってみてベストなものを選んでいった。リックがもっともっと声を出して歌ってみようよ、って提案していくなかで、基本に返って初期のニューウェイヴのような、いわばクールなエレクトロニック・サウンドにエモーショナルなヴォーカルを重ねてみようと思ったのさ」。

これまでのアンダーワールドというとワンコードのなかでストイックなヴォーカルを展開させる独特のスタイルをとっていた。だが今作ではドラマティックでメロディアスな起伏のある歌声を披露しているのだ。しかしそれは単なる懐古趣味ではない。最新のゲスト・アーティストを迎えることによって、新しいアプローチへと昇華されているのだ。

「実は自分たちがいま拠点にしているエセックス州の南にバーキングという名前の街があるんだよ。凄く貧しく荒んだところで普通は観光客なんて行かないような街なんだけど、逆境に耐えてがんばって生活している人たちがいる。僕らも、もっともっと前向きに外に向けて活動をしていこうと思ってね。今回のタイトルにはそういった地元愛的な意味も込められているんだ。もちろん〈Barking〉には単純に〈犬が吠える〉って意味もある。僕らの曲にはよく犬をモチーフにしたものが登場するし、“Born Slippy”だってもともとは犬の名前から付けたタイトルなんだ」。

このアルバムのリリースに先駆けてカールは8月25日から9月15日の期間、ラフォーレミュージアム原宿にて、彼のヴィジュアル・アーティストとしての側面を大きくフィーチャーした世界初のソロ・ペインティング・エキシビション「What's going on in your Head when you're Dancing?」を開催する。

「これは僕にとっても凄く特別な展示で、2m以上に及ぶ大作など、80数点のペインティング、そして創作ノート、映像作品などを公開するんだ。なかには書道のような画風もあって、自分のなかでいつのまにか日本の文化の影響を感じ取っていたのに驚いたよ。また10月には来日公演も行う。このところ〈フジロック〉や〈electraglide〉などビッグ・ステージばかりでライヴをやっていたから、今回はもっとオーディエンスと密着したライヴハウス的なところでプレイしたいと思ったんだ」。

まだまだアーティストして進化を続けるアンダーワールド。彼らの才能にリミットは存在しない。

 

▼アンダーワールドの作品。

左から、88年作『Underneath The Radar』、89年作『Change The Weather』(共にSire)、94年作『Dubnobasswithmyheadman』、96年作『Second Toughest In The Infants』、99年作『Beaucoup Fish』、2002年作『A Hundred Days Off』(すべてJunior Boy's Own/V2)。現在は初作を除いて入手困難です

 

▼アンダーワールドの近作。

左から、2007年作『Oblivion With Bells』、2008年のリミックスEP+DVD盤『The Bells The Bells』(共にUnderworld/TRAFFIC)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年09月16日 17:08

更新: 2010年09月16日 17:08

ソース: bounce 324号 (2010年8月25日発行)

インタヴュー・文/佐久間英夫