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インタビュー

カルメン・クエスタ

ジョビンへの深い愛情と理解が結実した『私のボサノヴァ』


アントニオ・カルロス・ジョビンの曲を中心とした『私のボサノヴァ』を発表したカルメン・クエスタは、子供の頃に『ゲッツ/ジルベルト』に心を奪われたの がボサノヴァとのはじめての出会いだったという。スタン・ゲッツが彼女の故郷マドリッドを訪れたとき、もちろん彼女は会場に駆けつけた。そのとき、ゲッツ のバンドでギターを弾いていたのが後の夫となるチャック・ローブだ。そんな、ボサノヴァがきっかけで結ばれたカルメンとチャックは、これまでも幾度となく ブラジル音楽を演奏している。しかし、ここまで正面きってポルトガル語でブラジル音楽に取り組んだのは、今回が初めてだ。

「実はこのアルバムは当初、歌い慣れている母国語のスペイン語で歌う予定で、自分でスペイン語に翻訳して準備もしていたんです。ところがジョビン協会から翻訳の許諾は出せないといわれて、がんばってポルトガル語を練習して歌うことにしたんです」(カルメン)

「協会が翻訳の許諾をしなかったのは、これまでアメリカでひどい訳詞をつけられてきたからそのトラウマで一切の外国語訳を認めない方針になったんだろう。カルメンの訳詞は、ヴィニシウス・ヂ・モライスの美しい詩の世界を損なわないように細心の注意を払って作ったとても良い翻訳だったので残念だけど、仕方がないよね。よほど昔に書かれた英語版の歌詞に立腹していたんだろうね(笑)」(チャック)

対訳のエピソードでもお分かりのとおり、彼らは思いつきやいい加減な気持ちでジョビンを取り上げたのでは決してなく、敬意を込めて、誠実にジョビンと向かい合っている。ジョビンの音楽について話題をふると、もう話が止まらない。

「ジョビンの音楽は、和声やメロディなどにクラシック音楽から影響を受けている要素が大きくて現代音楽的とも言える。メロディが消え行くと同時に新たなメロディが入ってくる構造の折り合い具合なんかが、とても複雑だったり…。今回のアルバムで取り上げている《白と黒のポートレート》も12音階を全部使っているといってもいいほど細かく作られている。でも曲自体はとても綺麗なんだ」(チャック)

「メロディの部分が複雑でいながら、和声の部分はとてもロマンチックだったり、その組み合わせが絶妙。すごく複雑なことをやりながら、誰もが楽しめるポピュラーな曲を作り上げている。そこがジョビンの曲の魅力ね」(カルメン)

そんな二人だからこそ、安易な物真似ではない、クリエイティヴなジョビンへのトリビュート作品を作ることができたのだろう。

「ポルトガル語で歌っても、私はブラジル人にはなれない。これはあくまでも、私が私なりに解釈した、タイトル通り〈私のボサノヴァ〉なんです」(カルメン)

掲載: 2011年10月17日 13:52

ソース: intoxicate vol.93 (2011年8月20日発行)

interview & text : 麻生雅人