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インタビュー

古武道

4作目で挑戦した楽器と歌で紡ぐ“和”
「〈イツクシミ〉とは崇高な母なる愛のこと。生命への賛美です」



古武道は、それぞれソロで活躍している藤原道山(尺八)、古川展生(チェロ)、妹尾武(ピアノ)の3人が5年前に結成したインストゥルメンタルのユニットだ。邦楽、クラシック、ポップスと出身ジャンルがそれぞれ違うのが大きな特長で、そこから独自の和を生みだし、音楽を創り上げている。

「普段は、それぞれに同じ言語を持つ人達と音楽を創っています。それが古武道になると、音楽の言語が異なる。そんな3人が集まって音楽を創るとなれば、難しいのは当然ですが、この5年間で感じるのはその難しさを克服することの大きな価値ですよね」(古川)

「僕は、他の2人から得る刺激がすごく大きい。妹尾のピアノに触発されたり、古川のチェロの歌い方に聴き惚れたり。また、曲ごとにリーダーがいるんですが、僕はそのリーダーに引っ張ってもらうことで、ソロとは違う、自分の新たな発見をしたりします。そういうことも新鮮で、おもしろいんですね」(藤原)

これまでに3枚のアルバムをほぼ3人だけでレコーディングしてきたが、新作『イツクシミ』では初めてシンガーをゲストに迎えた。

「これまでは3人の楽器をしっかり聴かせるというコンセプトでアルバムを制作してきましたが、4作目を作るにあたり、そろそろ新しいことをしてもいいのではと思い、今回シンガーをゲストに迎えました。それも単にゲストをフィーチャーするのではなく、古武道+シンガーで創った時にどんな音が出てくるのだろうか。新たな果実が実るのではないだろうか。そういう期待をしました」(妹尾)

そのゲストを具体的に紹介すると、ベテランの加藤登紀子、沖縄出身の夏川りみ、ポップスの今井美樹、沖縄民謡出身の上間綾乃、オペラ歌手の林美智子。ジャンルや年齢はそれぞれ異なるが、共通点は全員が女性であること。これは偶然の一致なのだろうか。

「全員が女性というのは最初から意図したことです」(藤原)

「アルバム制作は、昨年のミーティングから始まりました。生命とか、時間とか、僕らが普段の生活の中で当たり前だと思っていることがいかに幸せなのか、また尊いものなのか。少し大きなテーマになってしまうけれど、人の生と死を掘り下げたアルバムを作りたいとその時点で考えたんですね。リリースのタイミングが今だと、どうしても3月11日の大震災と関連があるように思われるかもしれませんが、これは全くの偶然。反対に僕らは、この企画を進めていいのだろうかと迷ったところも正直あります。その中で女性に歌ってもらったことで、特に夏川りみさんの《瑠璃色の地球》とかは母性が強く感じられる。それは良かったと思いますね」(妹尾)

3月11日の大震災以降、そのことをテーマにした新曲が生まれている。アルバムを制作中だったアーティストは、歌詞を書き変えたり、新曲を加えたりしている。その中で古武道の場合は、昨年から決まっていたコンセプトということもあり、テーマを掘り下げてはいるが、決して重苦しいものではなく、反対に演奏から希望とか、生命のたくましさ、歓びといったものが伝わり、体の中から元気が沸いてくるような曲が多い。

「僕は、《地平を航る風に》を書いたのですが、ちょうど5月に僕の長男が生まれまして、新しい生命への讃歌ということで書きました。3月11日のことはとても悲しく、僕達日本人にとって2011年は忘れられない年になってしまったけれど、でも、その一方で新たに誕生している生命もある。夏川さんと林さんにも小さなお子さんがいるんですね。そういう新しい生命に未来に向かって突き進んでいって欲しいという気持ちで書きました」(古川)

古武道のレコーディングは、いつもライヴ方式で全員が一緒に演奏する。それは、「お互いに音を聴きあい、感じながら、自分は次にどんな音を出そうか、その駆け引きを楽しみながら演奏するのが古武道だから」(藤原)という理由からだが、ゲストとも都合がつく限り、ライヴ方式でレコーディングした。だからこそ、作品全体にライヴ方式ならではの音楽の生きた力が感じられる。とりわけ際立っているのが加藤登紀子さんを迎えた《絆 ki・zu・na》という歌だ。

「僕達もおときさんの歌を聴いて、その場で鳥肌がたちました。この曲は、2004年にゴスペラーズの村上てつや君と僕が彼女のために書いたものなんですが、おときさんが今なら違う意味で歌えるし、歌いたいとおっしゃったので、アレンジに少し手を加えて。今はやって本当に良かったと思いますね」(妹尾)

アルバムにはイタリア人作曲家チェーザレ・ピッコが提供した《HOPE AT SUNRISE》など、聴きどころがたくさんある。その多彩な作品をすごくいいカタチで言い表しているのがアルバム・タイトルの『イツクシミ』であり、ジャケットになったマチスの絵画『生命の木』である。全てが偶然ではあるけれど、『イツクシミ』は、古武道がこのタイミングで出すべくして発表したアルバムだと思う。

アルバム発売記念ツアー『KOBUDO -古武道- 〜尺八・チェロ・ピアノコンサート〜「イツクシミ」』
10/1 (土) 長野・まつもと市民芸術館 主ホール
10/18(火) 大分・パトリア日田 大ホール(やまびこ)
10/21(金) 愛知・アートピアホール
10/22(土) 兵庫・神戸新聞松方ホール
10/23(日) 東京・渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
10/28(金) 北海道・札幌コンサートホールKitara 小ホール
11/2 (水) 福岡・アクロス福岡 イベントホール

【http://columbia.jp/kobudo/】

掲載: 2011年10月19日 11:13

ソース: intoxicate vol.93 (2011年8月20日発行)

interview & text : 服部のり子