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インタビュー

代々木忠

究極の愛とセックスを探求し続けるAV界の鬼才



80年代、アダルトビデオ黎明期から問題作を生み出し続け、〈AV界のゴッドファーザー〉として今なお現役の代々木忠監督。その波乱に満ちた半生を追ったドキュメンタリー『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』は、AVの象徴でありながら異端であり続けた代々木の生き様が赤裸々に描き出されている。「オナニー」「性感マッサージ」「催眠」「チャネリング」など、代々木は様々な手法で被写体のリアルな本能や感情を引き出し、実用本意のAVとはひと味違った作家性でエロの本質をえぐりだしてきた。

「自分でも何でこういう作品ばかり撮ってきたんだろうって思います。理由のひとつは自分の娘達の存在があります。娘達が自分の作品を見た時、親として向き合えるのかと考えた。そして、アダルトビデオが社会に与える影響の大きさを考えた時、自分なりに納得のいく作品を撮っていかないといけないと思ったんです。試行錯誤を経てオーガズムの定義ができてくる。世の中のセックスの多くは相手の肉体を使ったオナニーにしかすぎなくて、ちゃんと目を見つめ合って心を交わしたセックスができていないんです。そういう目合(まぐわい)ができてこそ赤い糸で結ばれるのにね」

作品を作っていくうえで何より「出会い」を大切にする代々木。それだけに出演する女性には時間をかけ、信頼関係が構築できるまで事前面接を行う。

「そのうえで重要なのは感情を出させること。笑わせるとか怒らせるとか、とりあえず〈感情オクターヴ〉をくすぐる。セックスというのは〈感情オクターヴ〉と〈本能オクターヴ〉でするわけですよ。一般の人の話を聴いていると、そこに〈思考オクターヴ〉が介在してくる。頭なんて使ったら、相手を分析したり、セックスが上手いとかヘタとか考えてしまう。思考にエネルギーを取られて、肝心の感じるエネルギーが残っていないんです」

現場で得た経験をもとにした独自のセックス哲学を手掛かりに、代々木は〈真のオーガズムとは何か〉を探求してきた。そして、素人、AV女優、フェミニスト、多重人格者など、様々な女性たちと心を開いて付き合ってきた。そんな代々木作品の目標は「女性を幸せにするAV」だ。

「女性がオーガズムに至る方法論みたいなものを作品の中で提示していきたいなと。というのは、女性はオーガズムを体験することで母性が機能しだすんです。母性が開花した女性たちは男を包み込む。そういう女性が増えれば、世の中は本当の意味で豊かになると思っています」

セックスを通じて人間の存在を問い続ける代々木の姿は、表現者であると同時に思想家のようでもある。究極の愛とセックスを探求しながら、今も代々木は刺激的な作品を通じて社会を挑発し続けているのだ。

掲載: 2011年10月18日 12:58

ソース: intoxicate vol.93(2011年8月20日)

interview & text :村尾泰郎