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インタビュー

三浦一馬

バンドネオンの若獅子、深い敬意を込めピアソラ集に挑む

 

 

 

ピアソラ・ブームで小松亮太が注目されて以降、シーンに登場した気鋭の若手バンドネオン奏者は、いずれもとにかく巧い。演奏技術も意識もすこぶる高い。中でもいち早くメジャー・デビューを果たし、話題を一身に集めているのが三浦一馬だ。90年生まれ、10歳でバンドネオンと運命的な遭遇というから、ただ事ではない。2年半ぶりのセカンド作は、生誕90周年にちなみ全編ピアソラ曲。しかも、《四季》4曲を中心に据えている。

「メモリアル・イヤーで節目ということもありますが、最初のCDでピアソラ、クラシック、ジャズといろいろなものを詰め込んで、自分なりにバンドネオンの可能性を示したつもりでした。今回はひとつのものを、現在も一番多く弾いているピアソラを、深く突き詰めてみたかったんです。《四季》を中心に、周辺に1曲、都会的で深い夜を思わせる洗練されたものが欲しくて、《スール》を選びました。後半のデュオ《オブリヴィオン》《天使のミロンガ》は、バンドネオンを始めた頃からのレパートリーで、個人的に思い入れが強かったりします」

曲の特性ゆえか、クラシカルな「タンゴ組曲」を柱とする前作とは、アルバム全体のイメージが異なるが?

「曲調の違いもあるんでしょうけど、今回はダークなピアソラ、それこそ泥臭い感じが出ているかなぁという気がします。ピアソラ本人の演奏も、本当にエッジの尖った強烈なものがありつつ、その中にすごく洗練された美しさを、《夏》や《冬》に感じます。でも、バンドネオン奏者である以上に、彼はやっぱり偉大な作曲家だったと思う。一見単純に思われがちな、力強さの奥にある洗練されたところを、なんとか表現できないかと、自分なりに演奏してみたんですね。本当にピアソラへのリスペクト、尊敬を込めたアルバムにしたつもりです」

バンドネオン・ソリストを自認する彼にとって師と仰ぐ存在が、ネストル・マルコーニ。図らずも弟子は師の意を継ぐ定めに? マルコーニもまた、先達アニバル・トロイロを慕い、輝けるソリストの道を選んだのだから。

「2006年に初めてお会いし、その頃から、自分のスタイルがガラッと変わったと自覚しています。バンドネオン奏者からすると、マルコーニさんの演奏は、テクニック的にも表現的にも途轍もない。出会ってすぐ、大幅なフォームチェンジをしました。楽器のベルトをきつく締めずに、長く緩めて、あくまで補助的な使い方に。それに慣れると、楽に自然体にいろんなことが自由に出来るようになった。師匠の演奏に触れてから、バンドネオンで歌う、きらびやかに響かせるということを実感しました。きっと、ちっちゃいマルコーニみたいに見えているのかも知れないと思うぐらい、すごく影響を受けています。これ以上の師匠はいません」

華麗なる師弟競演が日本で実現するのも、そう遠い話ではないようだ。来年末? 朗報を待つとしよう。


『ニーノ・ロータ生誕100年ライヴ〜三浦一馬 meets Nino Rota ツアー』
11/30(水)19:00開演
会場:電気文化会館

『クリスマス・スペシャル・コンサート X'maro 2011by 篠崎“まろ”史紀』
12/19(月)19:00開演
会場:王子ホール

http://kazumamiura.com

掲載: 2011年10月20日 13:55

ソース: intoxicate vol.94(2011年10月10日)

interview & text : 佐藤由美