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インタビュー

マーティン・ヘイズ& デニス・カヒル

アイリッシュ・ミュージックには〈ワビサビ〉の心がある


ケルティック・ミュージック/アイリッシュ・フォークといえば、美しいハープの演奏や透明な女性ヴォーカルによる優しい癒しの音楽、あるいは一時期ブームを呼んだリバー・ダンスの音楽のように浮き浮きするダンス・ミュージック、というイメージが定着している。しかしマーティン・ヘイズとデニス・カヒルの音楽はそのどちらでもない。まったくそのように聞くことができないというわけではないが、フィドルとギターによる彼らの変幻自在な音楽は、もっと深みと柔軟性のあるものだ。

「少年時代はアイリッシュ・フォークに打ちこんでいたが、20代前半にはエレクトリック・バンドで新しい即興方法を考えたり、ある種のハイブリッド性にひかれて、70年代のフュージョンを聞いたり、インド音楽に興味を持ったりした。そのころは目の前の現実を追い求めることに精一杯で、子供のころ信じていたアイリッシュ・ミュージックが、ただの幻想のように見えてきた。でも歳を重ねたあるとき、ふと思ったんだ。アイリッシュ・ミュージックはどこにいってしまったんだろう? って。そして、それはただの幻想ではない、アイリッシュ・ミュージックで語りかけることで、感情や思いをより深くコミュニケートできるんだと思いはじめた」(マーティン)

「ぼくは以前はエレクトリックなバンドを二つかけもちしていた。聞き手が喜べば、お金になる仕事だった。でもそれは必ずしも自分のやりたい音楽ではなかったし、メンバー間で問題もいろいろ起こって、気持ちがすさんでいった。それでそこから逃げ出したんだ。最初は収入も減って、苦しかったけど、やりたいことができる喜び、ストレスから解放された安心感は何ものにもかえがたかった」(デニス)

来日公演はこの秋が5回目だが、初来日から10余年の間に、日本に対するイメージもずいぶん変わってきた。

「日本とアイルランドの文化はとても離れているけど、共通点もあることに気付いた。日本人の行動を見ていると、言葉はよくわからなくても、理解できるところがあるんだ。たとえば社会習慣として、オレがオレがと主張して相手を押しのけるんじゃなくて、相手の気持ちを尊重するところは、昔はアイルランドもそうだったなあと思う。それに、アイリッシュ・ミュージックについて日本人に説明するときも、ワビサビという言葉で語るとうまく伝わるんだよ」(マーティン)

「日本人にギターを教えていると、まじめな難しい質問をされて、なんで自分がこういうことをはじめたのか、よく考えさせられるんだ(笑)」(デニス)

彼らは自分たちの音楽を聞き手も含めた双方向的な表現と考えている。アイリッシュ・ミュージックの最高峰の考えに日本人との交流が一役買っていることを知るのは喜びでもある。何度聞いても飽きない彼らのライヴにこの秋も足を運ぶつもりだ。

『2011年来日公演情報』
11/5(土)トッパンホール with ヴェーセン
11/8(火)旧古河庭園洋館

THE MUSIC PLANT  www.mplant.com

掲載: 2011年10月20日 15:31

ソース: intoxicate vol.94(2011年10月10日)

interview & text : 北中正和