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インタビュー

山下洋輔

70歳を迎える年、12回目の初夢はアン・アキコ・マイヤースと

驚愕に愉快に彩られた新春も、首謀者にとっては新たな挑戦と過酷な試練の連続だったに違いない。『山下洋輔の新しい夜明け』から12回、山下プロデュース としては4回目となる『東京オペラシティ ニューイヤー・ジャズ・コンサート』。茂木大輔、ブーニン、林英哲に続く、2012年の首班指名はアン・アキコ・マイヤースだ。

「生まれる前からの出会い」だと山下洋輔は語る。隣家のお嬢さんがアメリカで結婚し、ある日「娘がヴァイオリニストになりました」とカセットテープが送られてきた。それがメータ指揮ニューヨーク・フィルと初共演した、12歳の彼女の演奏だった。「息づかいが聴こえるような、ライヴな感じがした。クラシック音楽からはあまり伝わってこないメッセージがあって、すごいなと思った。その頃から、つややかな音を出して、堂々たるものでしたね」

1985年の暮れ、高円寺の居酒屋で初めて待ち合わせ、下のレコード屋で出たばかりのソロ・アルバム『センチメンタル』を買って15歳のアンに渡した。「母子で聴いて、『ひょっとして天才か!?』とからかっていました。ニューヨーク・トリオの現地スイート・ベイジルでの公演も聴きにきてくれて、喜んでいました。村松友視さんにも筒井康隆さんにもご紹介したし、もう自慢の娘ですよ(笑)」

そう言って「不良のおじちゃん」は、宣伝用につくられた彼女のテレホンカードをそっと財布から出してみせた。もちろん未使用である。「結婚式の案内状もきたので、ニューヨークに飛んでいきましたよ。ハドソン川の夕陽がみえるペントハウスで、映画の1シーンみたいでした。今回のオファーはそのときに切り出して。2年前でしたが、そういうことがあるならうれしい、と言ってくれた」

いつもはファミリーでも、音楽家としては厳しいプロ同士の初手合わせだ。「弓で譜面を捲ったり、弾きながら爪先で譜面台を動かしたり、彼女はすごく自然なんです。なにかジャズマンに似ていて、リズムに合わせた身体の動きをする。分厚く逞しい音も出しますし、切ない瞬間がすごい。とはいえこの世でいちばん怖ろしい女流芸術家ですからね(笑)、そういう一面もあります。新春はたっぷりとこの人の魅力にひたっていただきたい」。ステージは二人のソロとデュオ、マイヤース&本名徹次指揮東京フィルの二部構成。モーツァルトの協奏曲では、ウィントン・マルサリスが彼女のために書いたカデンツァも披露される。

一方、23年目となるNYトリオの新作では、ジャケットが象徴するように東京オペラシティでの挑戦から生まれた多くの曲を、飛鳥ストリングスも交えて再構築している。

「2000年にコンチェルトが発表できたのが大きな背景になって、音が深まってきた気はしますね。オペラシティに育てられたといったら言い過ぎかな。ピア ノがとっても自由自在になって、なにをやってもいいということが、だんだんしっかり実感できてきた。自分のなかのあらゆる可能性がみえて、さらに表現の選 択が自由に広がった。もはやジャズにも拘らず、『ここで一曲即興曲をやります』と言って成り立っちゃうといいですね」

写真:島崎信一


『東京オペラシティ ニューイヤー・ジャズ・コンサート2012 山下洋輔プロデュース アン・アキコ・マイヤース  初夢ヴァイオリン』


アン・アキコ・マイヤース(vn)本名徹次(指揮)東京フィルハーモニー交響楽団
山下洋輔(プロデュース/P)
2012年1/7(土)18:00開演
会場:東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル
http://www.operacity.jp/

掲載: 2011年10月20日 13:14

ソース: intoxicate vol.93(2011年10月10日)

interview & text : 青澤隆明