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インタビュー

渡辺貞夫

東日本大震災で生まれた思いを込めた新作『カム・トゥデイ』



日本を代表するジャズマン、渡辺貞夫の新作『カム・トゥデイ』は、全曲がアコースティックなカルテット編成によるオリジナル曲集だ。

「3月11日の東日本大震災で自分の中にさまざまな思いが生まれて、その後に出来た曲が4~5曲入っています。地震の後はテレビを毎日見てね、何が出来るんだろう、どうしたらいいんだろうというような、自分に対してのもどかしい気持ちがあったわけです。そこから《ホワット・アイ・シュッド》というタイトルの曲ができました。震災の後、寒い日が続いて、それで《ウォーム・デイズ・アヘッド》という曲を作ったんです」

さて、今回のレコーディング・メンバー三人は、ニューヨークの第一線で活躍する期待の若手ジャズメンたち。

「レコーディング・メンバーは『イントゥ・トゥモロウ』(2009年)の3人で、非常に気に入ったのでまた集まってもらいました。僕からは、気分的にはこんな感じ、テンポはこれぐらいで、ぐらいの指示をして、リハーサルのときに具体的なアプローチを任せちゃったんですよ。その結果として、ミュージシャン同士のカンバセーションが出来たということを、今回特に感じましたね」

録音のときに、震災の話題は出たのだろうか。

「特に地震や原発の話を彼らとはしませんでしたが、《シーズ・ゴーン》という曲は僕のプライベートな出来事(註:奥様のご逝去)から出来た曲で、彼らもそのことは知っていました。今回の震災で肉親を失った方々のお気持ちと、家内を失った僕の気持ちがオーバーラップするのでは、と思って録音したんです」

日本の誰もが深刻な衝撃を受けた震災に対する渡辺貞夫の深い思いが、エモーショナルな演奏からひしひしと伝わってくる。感情のさまざまな機微を演奏にこめる、ということを、演奏者は意識しているのだろうか。

「僕の場合は成り行きというか、特にフレーズの解釈を意識しませんね。まあ最初から怒鳴ってバラードを吹こうとは思いませんけど(笑)。感情が入っているかどうかは結果としてそうなるので、ここは優しく吹こうとか強く吹こうとか、意識したことはないですね。それを意識しちゃうとわざとらしくなるんじゃないかな」

2011年は、日本にとって忘れられない年になった。僕は将来も、『カム・トゥデイ』を聴くと、この震災の年のことを想起するだろうと思う。

「納得できるアルバムってなかなか出来ないものでしょうね。時間が経ってから聴くと、あのときはそれなりにがんばっていたんだな、と愛着を感じたりはするんだけど。ただ、今回は震災に遭った方々への気持ちをこめてアルバムを作りましたから、今までとは違った一枚になったと思います。このあいだ東北を回ってきたんですけど、陸前高田ですべてを失った友人がいましてね、演奏を聴いて感動して泣いてしまった、と言ってくれました」

『60周年記念コンサート』
2011年11/28(月)29(火)ブルーノート名古屋
2011年12/1(木)札幌教育文化会館
2011年12/4(日)宇都宮文化会館
2011年12/6(火)大阪シンフォニーホール
2011年12/8(木)NHKホール

http://www.sadao.com/

掲載: 2011年10月26日 11:00

ソース: intoxicate vol94(2011年10月10日)

interview & text : 村井康司