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インタビュー

ショーロクラブ

唄い継がれ、転生する武満徹のソングブック



映画や舞台などのために書かれた小曲や歌ものにこそ、武満徹のメロディ・メイカーとしての才能だけでなく、表現者としての本質が最も象徴的に息づいていると考えるファンは少なくないはずだ。実際、彼の最晩年ごろから今日まで、そういった作品に光を当てたカヴァー作品はいくつも作られてきた。そして、この新作こそは、最高傑作であり決定打でもあると思う。『武満徹ソングブック』。ショーロクラブ(笹子重治、秋岡欧、沢田穰治)が編曲と演奏を担当し、《翼》や《死んだ男の残したものは》《燃える秋》等々、計13曲をアン・サリー、沢知恵、おおたか静流、松田美緒、おおはた雄一、クラシックの松平敬などが次々とリレーのように歌い継いでゆくオムニバス盤である。まず驚かされるのが、どのトラックも、これがオリジナルではと思わせるほど演奏もアレンジも歌も実に自然で無理がない点だろう。笹子は言う。

「今回、へたすれば、武満作品集ショーロクラブ・ヴァージョン、みたいになったと思うけど、全然そうはならなかった。全ての曲が、歌手も含め、こういうアレンジ、こういうサウンド、こういう歌以外にはない、みたいなところに無理なく落ち着いた。気づいてみれば、アルバム全体、無駄が全然ない。こんなにスムースでいいのかと心配になるほどに、トラブル・ゼロで悩みゼロ」

それは、参加メンバー全員が例外なく武満徹の音楽を熟知し、愛している故だろうが、特にショーロクラブの3人は、パブリック・イメージからは想像できないほど、武満に関しては一家言の持ち主ぞろいだ。

「最初の出会いは70年の大阪万博だから、僕が12才の時。鉄鋼館の音楽として武満が作った《四季》に衝撃を受けた。その後、高校時代に《弦楽のためのレクイエム》を聴いて、完全にファンになり、今に至るまでずっと自分の音楽の土台の一つであり続けてきた。僕も独学でオーケストレイションなどを勉強したけど、間違いなく武満の影響がある」(沢田)

「クラシックの作曲家の場合、すごく饒舌な作品が多いけど、武満は全然違う。ボキャブラリーはさほど多くないけど、独特な音の重ね方とか響き、色彩感がどの曲にもある。彼の詩もそうだけど、いらないものを全部とっぱらった感じがする。余計なものをそぎ落としたらこうなった、みたいな」(秋岡)

そういった深い理解と愛に裏打ちされた本作から伝わってくるもの……果たしてそれは、一種のサウダーヂの感覚である。失われてしまったもの、見果てぬものに対する、言葉にできない懐かしさ、もどかしさ、郷愁、哀しみ、そして希望。それは、武満のあらゆる表現の通奏低音のようなものかもしれない。実際3人とも、本作の録音中(大震災の前後)に何度もそういった感覚におそわれたという。未曾有の災害に傷ついた日本で、今、この作品が生まれたのは、必然だった気もする。一人でも多くの人に聴いてもらいたい傑作だ。

 

『武満徹ソングブック コンサート』
2011年11/19(土)17:00
会場:目黒パーシモンホール
出演:ショーロクラブ、アン・サリー、沢知恵、おおたか静流、おおはた雄一 、松平敬、松田美緒、tamamix

http://www.choroclub.com/

掲載: 2011年10月27日 11:00

ソース: intoxicate vol.94(2011年10月10日)

interview & text : 松山晋也