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インタビュー

ピーター・ローゼンダール


トラッド・ジャズから遠く離れて。インスピレーション&パワー

 

 

 

76年デンマーク生まれのピアニストの音楽はパッと聴くとヨーロピアン・ジャズの美的センスを感じさせるが、その奥にチラチラと見え隠れする不思議な感覚は一体何なのだろう? と思わせられる。普段知らないピアニストを聴くと「この人はどんなタイプ? ビル・エバンス風? バド・パウエル風?」などと誰それとの関連性を見いだそうとしてしまう。しかしピーター・ローゼンダールのピアノは分類が難しいタイプのピアノでは?

「僕はトラッドなジャズのスタイルからは距離を置くようにしているんだ。また、自分の音楽はクラシック、民族音楽、ブラジル音楽、ポップスなどあらゆるジャンルからインスピレーションを受けているしね」

今回【Cloud】レーベル4作目として日本制作で完成した『クレセント』のメンバーにはマッズ・ヴィンディング、モーテン・ルンドというピーターにはお馴染みのリズム・セクションを迎え、自身のオリジナル8曲とトラッド、スタンダード、そして自国の作曲家ニールセンの曲で構成されている。

「曲作りは映画から得ているよ。映画の世界に浸り、いろいろとあれこれ考えている自分から解き放たれて自然に曲を書いていったんだ。マッズもモーテンもこれまで自分のアルバムで共演した気心知
れた人たち。インプロヴィゼーション、グルーヴ感を追求しつつ、新しいものを生み出そうというパワーは僕ら共通のものなんだ」                                           

ピーターのピアノにはジャズ的なリズム感がいたるところにありながら、どこかクラシックの匂いが感じられる音使いやコードの響きもある。プロコフィエフ、ヒンデミットを好むということにもうなづける。

「ピアノはオーケストラのようなサウンドを一台で表現でき、また打楽器でもあるんだ。僕は子供の頃にドラムをやっていて、そのとき自身の中で目覚めたグルーヴ感をそのままピアノに移行して自分のスタイルを作り上げた。実際僕はクラシックを学んだことはないし、そんなに多くのことを知ってもいないと思うけれど、影響はすごく受けているよ。民族音楽からくるものと同じぐらいね」

《ハミング・ミー》《パルプ・フリクション》などのオリジナル曲でバックにホーンのような楽器が聴こえるが、これはピーターのもうひとつの才能であるフリューガボーン(フリューゲルホーン形状のバルブトロンボーン)によるプレイ(オーバーダブ)だ。

「ホーンはピアノのようにノート(音、音階)が目に見えていて演奏するわけではなく、吹いた音を聴こえるままに演奏するというのが面白い。ピアノを弾くということとは違ったアプローチを楽しめるものだと思っているよ。人間の肉声にも近いし、暖かくやわらかいサウンドを得るためにバックで鳴らしてみたりするんだ」

今後個性的な新世代の北欧のピアニストとして認知されてゆくのだろう。日本へ演奏に来る機会をぜひ持ちたいと願っているそうだが、実現できる日は近いのかもしれない。

 

掲載: 2011年10月31日 11:00

ソース: intoxicate vol.94(2011年10月10日)

interview & text : 馬場雅之(タワーレコード本社) photo:Stephen Freiheit