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インタビュー

藤原道山


ウィーンの教会で結ばれた、尺八と弦楽四重奏団との幸福なマリアージュ



2001年末のCDデビュー以来、尺八の新時代の担い手として、精力的な活動を続けている若き巨匠、藤原道山。これまでにも各ジャンルのトップ・アーティ ストや様々な楽器とのコラボレーションを成功させてきた、そんな彼が10周年という節目の今回、ウィーン・フィルのコンサートマスター、フォルクハルト・ シュトイデ率いる弦楽四重奏団との共演アルバムをリリースした。

「シュトイデさんが僕の一つ上で、あとのメンバーもだいたい二〜三つ下とほぼ同年代の彼ら。ウィーン正統派の流れを継承しつつ、新しい音楽にも積極的な姿勢をとっているところに相通じるものを感じました。2009年にカルテットとして初来日した際にコンサートで共演を重ね、昨年ウィーンのホーフブクル教会でのレコーディングが実現。あのウィーン少年合唱団が本拠地としている教会で、響き過ぎず、音色の細かいニュアンスも出せる素晴らしい場所でした。ここでかつてシューベルト少年も歌ったのかと思うと、気分が高揚しましたね」

クラシックからオリジナル曲までタイプの異なる楽曲で、それぞれの持ち味が共鳴し合って、魅力的な音の世界を作り上げていく様は圧巻。特に《J.S.バッハ:管弦楽組曲第2番より》での躍動感あふれる〈バディネリ〉に至る流れが実に心地よい。

「真っ先に候補に挙がった楽曲です。(フルートの前身といわれる)古楽器のフラウト・トラヴェルソを意識して吹いてみました。当時の楽器には今ほどキーが付いていないので、実は尺八の表現がより近いかもしれません」

時代も場所もかけ離れているが共に〈うたごころ〉感じさせる《からたちの花》と《流れよ、わが涙》も見事。

「日本の歌曲を入れたくて…ドイツで学び東西文化の架け橋として偉大な先人である山田耕筰の作品なら、今回の企画にふさわしいと思って。ダウランドの方はリコーダーをイメージした演奏がうまくはまったと思います」

尺八の伝統曲《虚空》も聴きどころだが、道山の書き下ろし曲《月下竹韻》も日本人の心象風景そのものだ。

「邦楽でも彼らの間合いの取り方は絶妙で、むしろ自然。《月下竹韻》では和の風を感じていただけるはずです」

月といえば、アルバム全体の編曲を担当した大島ミチルによる「Lune」ではまた対照的な世界を紡ぎ出す。

「こちらは西洋的(フランス近代風)な月ですね。エレガントでどこかミステリアスな雰囲気を湛えています」

ロマの民族舞曲かと聴きまごうばかりの《La Festa》も実は大島作品。弦楽器の冴えた技巧が鮮烈だ。

「彼女自身、弦カル好きでシュトイデさんとも親交があるので、僕ら三者で調和の取れた三角関係なんです(笑)」

アルバム・タイトルにもなっている〈FESTA〉とは〈祭り〉の意味。1曲目に置かれた道山オリジナルの《MINORI》からも「黄金色に輝く田畑を前にした喜び溢れる収穫祭の風景」が浮かびあがる。尺八+カルテットの世にも豊潤な〈五重奏〉を12月から始まるツアーのステージで、ぜひ生でも体験したいものだ。


藤原道山×シュトイデ&仲間たち Tour Schedule
2011年12月2日(金)浜離宮朝日ホール
2011年12月3日(土)逗子文化プラザホール
2011年12月5日(月)名古屋 電気文化会館
2011年12月6日(火)神戸新聞松方ホール
http://www.dozan.jp/



Profile
藤原道山
10歳より尺八を始め、人間国宝山本邦山に師事。
東京芸術大学音楽学部邦楽科卒業、同大学院音楽研究科修了。在学中には、御前演奏を務める。2001年アルバム「UTA」でCDデビュー。以来、これまでに10周年記念ベストアルバム「天-ten-」、山本邦山作品集「讃-SAN-」他計15枚を発表。並行して、様々な可能性を求め、坂本龍一、ケニー・G、野村萬斎、ウィーン・フィルメンバーによるスペシャルアンサンブル、チェロの古川展生とピアノの妹尾武で組んでいるKOBUDO-古武道-などのアーティストとのコラボレートを積極的に行うなど、ソロ以外でも活動。また松竹映画・山田洋次監督・木村拓哉主演『武士の一分』では、ゲスト・ミュージシャンとして音楽に参加。 常に既成の尺八イメージを変える自由な発想で、舞台音楽制作、アルバム制作、コンサートツアー等を計画、原点とオリジナリティを追求しながらもジャンルを超えた音楽活動を展開している。

シュトイデ弦楽四重奏団
ウィーン・フィルのコンサートマスター、フォルクハルト・シュトイデのもとに同オーケストラの次世代を担う演奏家達が集った、ウィーン正統派の流れを継承した、今もっとも新鮮なアンサンブル。 2002年1月1日の結成以来、連続してザルツブルク音楽祭に出演。 2003年4月には、大阪国際フェスティバルにも出演している。優雅かつウィーン特有の気品を湛えたアンサンブルは絶品。
ウィーン・カルテットの継承者としての呼び声が高く、将来が期待される。
2006年にはウィーン楽友協会でコンサートデビューをはたし大絶賛を受ける。2009年からは 楽友協会で年4回の定期演奏会を行っている。

カテゴリ : Web Exclusive

掲載: 2011年11月01日 11:21

ソース: intoxicate vol.94(2011年10月10日)

interview&text:東端哲也