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インタビュー

アマジーグ・カテブ


闘争の伴走者としての音楽


2006年にグナワ・ディフュージョンを率いて来日したアマジーグ・カテブは、その後バンドを解散してソロ活動に入り、09年には初ソロ・アルバム 『Marchez Noir』を発表。バンド時代以上にシャアビなどアラブ色を強めたこの作品には、祖国アルジェリアに寄せる強い思いばかりではなく、著名な作家/詩人で あった亡き父カテブ・ヤシーヌへの思慕の情がにじんでいる。なにしろ、父の詩を引用した歌が2曲も入っているし。一人になり、改めて自身の足元を静かに見 つめ直した末の燃えるような傑作だ。アルバム・タイトルの「Marchez」には「マーケット」と「歩く」という意味が重ねられている。つまり「ブラッ ク・マーケット」及び「黒く(黒人のように)歩け」。そこに込められた意図は、明快だ。

「今、世界は非常に速いスピードで流れているが、多くの人々は座ったまま同じ場所にいるだけだ。そして、広告に振り回されて生きている。そんなものに害されることなく、自分の足で外を歩き、自分の目で世界の現実を見なくてはならない。そういうメッセージを込めたんだ」

どこを切っても血が噴き出してきそうなほど闘争的な歌詞も含め、端的に言えば反グローバリズムの戦歌。

「アメリカが牽引してきた資本主義の下では、急速な経済成長だけが追求され、社会は人間の生ということを考えずに発展してきた。未曾有の原発事故と放射能汚染に苦しんでいる現在の日本だって、根本的原因はそこにある。だからこそ、これからはすべての人々が反抗精神を持って自分の足で歩んでゆくべきだと思うんだ」

といっても彼の場合は、単純かつ旧来の社会主義者というわけではない。

「正確に言えば、アナルコ・コミュニズム(無政府主義的共産主義)の信奉者だね。僕は、アナキズムの自由精神が好きだし、人民の顔、現実の生活をないがしろにしない新しいコミュニズムの組織力も必要だ。今、反グローバリズムの思想を持った人々が世界中でちりじりになって活動してるので、そういう勢力が一つにまとまるために、僕の歌が少しでも役立てばいいと思うよ」

そして、今後、グナワ・ディフュージョンも再結成する予定だという。既に曲作りに入っており、来年春には新作を出すというから驚きだ。

「自由には2種類ある。個人の自由とグループで分かち合う自由。僕はソロ活動の時は、個人の自由を楽しむが、バンドでやる時はグループの中の自由を尊重する。皆でひとつの自由を分かち合うグループによる自由は、音楽的にも社会的にも政治的にも重要だ。フランスには、私の自由はあなたの自由があってこそより大きな自由になる、という言葉もあるんだ(笑)」

それはまさに、アマジーグ(ベルベル語で自由人を意味する)という名前を父から与えられた彼の音楽哲学、人生哲学でもあろう。「自由は勝ち取るだけでなく、皆と分かち合うということが、とても重要なんだ。自由がお金のようであってはいけない。自由は酸素と同じ、誰もが吸えるものなんだ」

カテブ・ヤシーヌの魂は、確かにここに生きている。

掲載: 2011年11月04日 11:00

ソース: intoxicate vol.94(2011年10月10日)

interview & text:松山晋也   撮影:石田正隆